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灰色の世界より  作者: 霧間 誠二
第一章 目覚め
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5話 誕生祭

 今日はボクの一歳の誕生日。

 御祝いというよりは、公開処刑に赴くような気分ではあるが、仕方ないと諦めた。

 何でも『誕生祭』と言って、村の神殿前にある中央広場が会場で、ほかの村の人は朝早くから準備をするらしく、ボク達は三の灰色刻(夕方の五時)ごろに行く。

 衣装は普段着ている服の上に、灰色のローブを纏うだけのようだ。

 子供の家族は全員が着るようで、四人とも灰色である。

 ディーノ父さんは自分の身なりを気にしているのか、少し挙動不審である。

「カーミラ村ではこんな習慣があるんだね」

「外のほうでは誕生日を祝う習慣ないですからね」

「そうなんだー」

 ディーノ父さんが村の出身じゃなかったということは、セリア母さんが旅から連れて帰ってきたのか。

「しかし、あのセリアさんに子供ができて一緒に祝うとは、月日は早いです」

「そうねー、誕生祭やるのは十年ぶりらしいわねー」

 そういうとセリア母さんとアンジェがちょっと暗い顔になる。

 たぶん弟を思い出しているんだな……いかんいかん、ここは声をかけよう。

「セリア、母さんは、何歳?」

 ボクの言葉に「あらあら」と二人とも笑顔に戻ってくれた。

 よかったんだが、女性に年を聞くのは失礼だったな。

 もっと気の利いたことは言えなかったんだろうか。

「お母さんは二十一歳よー」

 にっこりとそう答えてくれたんだが、十八歳くらいだと思ってたよ! 

 これなら父さんとは年の差夫婦ではなさそうだな。

「ディーノ、父さんは?」

「父さんは十九歳だぞ」

 こっちもにっこり答えてくれたけど、二十代後半だと思ってたよ!

 ディーノ父さんのほうが年上だとずっと思っていたんだが、これは驚いた。

「アンジェは?」

 さり気なく聞いてみた。

 一番気になってたんだよね、獣人族は寿命長いから。

 さっきの会話で何となくわかってるけど、確認したい失礼なボクだった。

 ちなみに、アンジェは敬称で呼ばれるのに慣れてないらしく、呼び捨てにしてほしいとお願いされて、呼び捨てになった。

 アンジェさんと呼んだら、すごく気持ち悪そうな顔されたから仕方ない。

「私は二十六ですよ、人族だと五歳になるんですかね」

 そうなると長い年月、塞ぎ込んでたんだな……たぶん、六年くらい?

「そう、なんだ」

 こういうのを聞くと、今まで考えてもなかったけど、あっちでボクの死を悲しんでくれた人とかいたんだろうかと思ってしまう。

 いや、やめとこう。

 思い出すと怒りしか沸いて来ない。

 軽く深呼吸して怒りを静める。駄目だな、考えないようにしないといけない。

 何だか頭もフラフラとしてきた。

「ど、どうしたんですかオーラン?」

 アンジェが慌てて聞いてきたんだが、何だ?

 何か困った顔というか、前に見たなこの表情。

 両親も「どうしたんだ?」って顔してるが、何かあったかな?

 三人ともボクを見てるが……はて?

 そういや、何かふわふわと背中にいるような感覚がある。

「一歳、おめでとう!」

 どうやら幽霊睡魔少女に抱きつかれてフラフラだったようだ。

 そのままボクは眠りについた。


 目が覚めてから誕生祭の会場へ出発。

 家から離れるのは、初めてのことだ。

 両親と手を繋いで歩いて、アンジェは後ろから椅子を三脚持って付いて来ていた。

 村の中央に続く道には、銀色のタンポポに小さい笹の葉がついたような花が、道の両側に咲いていて、遠くまで繋がって銀の花道となっている。

 そして珍しいことに、幽霊少女が空中で仰向けに寝転がって浮遊して、ボクの頭上で凧のように付いて来ている。

 いつもなら、突然現れては抱きついて眠らせて居なくなるのだが?

 チラチラと頭上を見ながら、移動していくと橋に辿り着く。

 アーチ型をした木材の橋で、まったく壊れる心配がなさそうだ。

 川には銀の花が、道と同じように川辺に咲き続いていた。

 遠目にだが、村の中心にある神殿だと思われる建物は十字架がない教会に似ていた。

 神殿前の広場には村人らしき人が三人おり、両親とアンジェが頭を下げた。

 広場には椅子がぐるりと並んでおり、中央には薪がお互いに支えるように組みたてられていた。

 アンジェが椅子を置くのを確認して、その三人についていく。

 竜人の左右に、翼の生えた翼人の男女が二人だ。

 中に入るとそこは礼拝堂だった。

 ステンドグラスではなく普通の窓ガラスが使われており、余り神聖な場所という威圧感はない。

 並べられた長椅子には人族以外の人々が多く、首だけ動かしてこちらを見ていた。

 前の三人が最前列を過ぎて立ち止まり、跪く。それに習ってボク達も跪いて祈りのポーズをする。

 浮かんでいた幽霊はスーッと竜人の上を通り過ぎて、石像らしき物のところにいったようだ。

 どんな銅像なのか竜人が邪魔で見えない。

 祈りが終わったのか、前の三人は立ち上がると、竜人は左に、翼人二人は右へと移動していく。

 石像の右側に竜人、左側に翼人が行くとみんなのほうに振り返った。ボクの視線は、ロープで立ち入りを拒む三段の壇上に在った石像に吸い込まれていた。


 それを石像と呼ぶのは誤りだった。

 光を少し反射して、輝きを漂わせる銀の像。

 精巧な作りなんて物ではなかった。

 まるで今にも動きそうなほどに、生命を感じる。

 生きた人間が、そのまま銀に変わってしまったかのように、その銀の像は両足を跪いて、祈りを捧げていた。

 背筋を伸ばし、手は顎の下の少し前辺りで組んでいる。

 その表情は、守るように包み込むかの如く、優しく穏やかに目を閉じて幸せを祈っていた。

 一目で理解できる。

 祝福の女神カーミラ。

 どんな無神論者でも跪くだろう。

 存在が違いすぎた。


 そんな女神像の横に、いつもの幽霊少女が立っていた。

 あの幽霊が成長したら、女神になるのではないかと、そんなことを思ってしまうほど、二人は姉妹のように似すぎていた。

 もしかして、彼女……女神そのものなんじゃと考えていると、いつも笑って騒がしい彼女は、真面目な顔で厳かに言葉を紡いだ。

「我、偉大なる女神、カーミラ様の眷属が一人、ミラ=カーミラが願う。我らの新しき眷族、オーラン=カーミラに祝福が在らんことを」

 すると女神像が、眩く銀色に光り始めた。

 約五秒ほどの時間であったが、光が消えると、竜人の人が口を開いた。

「オーラン=カーミラに祝福を!」

 その言葉を座ってた人達が唱和する。

『オーラン=カーミラに祝福を!』

 その後は拍手が起こり、後ろの席に座ってた人たちから前に移動して「おめでとう!」と声をかけて、みんな笑って外に出始めた。

 外で祭りの準備を始めるようだ。

 そしてミラ=カーミラと名乗っていた彼女は、その様子を身ながらよしよしと頷いて、女神像の膝を枕に寝始めた。

 いや……あの子、すごいわー。

 ちょっと威厳あるなと思ったら、見事に砕いてくれた。

 大仏を枕にするお坊さんみたいなものだ。

 目の前のことが信じられない気持ちである。

 一通り挨拶が終わると、翼人の二人と竜人が花輪を手にやってきた。

「改めておめでとう、久々の祭りだぞ? 楽しもうじゃないか」

 この竜人さん、すごく渋くてよく通る声だなと思いつつ、花輪を差し出されたので受け取って、じーっと顔を見ていたら頭を撫でられる。

「ほう? 俺を見ても泣かない子は初めてだ」

「オーランは天才ですから、村長くらいじゃ泣きませんよ」

「いつも泣かれているんですか?」

「こんな静かな誕生祭、初めてでしたわ」

「そうそう、始めから終わりまで村長が怖くて泣き続けるからね」

 何てハハハと笑いあう皆さん。

 いや、顔は怖いよ?

 でもこう、癒し系オーラを感じるというか、何故か和める村長さん。

 何て遣り取りをしつつ外にでると、みんな椅子に座ってる待機状態。

「さて、オーラン。花輪をあの木のとこに置いて戻って来て下さい」

 アンジェに背中を押されてそう言われたが「さすがにそれは無理だろ」と村長さんが呟く。

「わか、った」

 普通の一歳児なら難しいよなと思いつつ、歩いて置きに行くボク。

「置いて、きたよ」

 周りから「えらいぞー」「よくできました」とか拍手を貰う。

「おいおい、すごいなオーラン」

 ボクと入れ替わりに、村長が薪に近づいて火を付けると、祭りが始まった。

 最初は乾杯から始まり、火のまわりで踊り、音楽を奏でるものは楽器を手に歩いている。

 キャンプファイヤーの周りで騒いでるだけであるが、高揚感がある。

 みんな楽しそうで、ボクの前に通るたびに祝福の言葉を何度もかけてくる。

 食事や飲み物は神殿の横に設置されており、みんな思い思いに食べては飲んで騒いでいる。

 メインイベントは空の旅だった。

 翼人の男性に捕まって飛んだのだが、二周くらいして降りたらアンジェに怒られていた。

 その隙に村長に捕まってまた飛んだ。

 危ないからもう駄目ですと、アンジェに抱かれていたら、今度は翼人の女性がアンジェごと空を飛ぶ。

 この三人、真面目そうだと思っていたんだが違うようだ。

 空を飛ぶのは、気持ちよかった。

 最初は怖かったが、村の様子がよく解る。

 みんなが下で手を振ったり、大声をあげて呼びかけたりしてきて楽しかった。

 暗くなると飛ぶのは終わりらしく、火が消えるまで騒ぎは続いた。

 火が弱くなっていくと、ボク達に声をかけてから帰るのが決まりのようだ。

 みんなに手を振りながら、別れの挨拶をしていく。

 そうして村長と翼人だけになると、ボク達も家に帰ったのだった。

 祭りのあとの寂しさなのか、何故か涙が出てきた。

 こんなに楽しかったことがあっただろうかと自問自答する。

 村のみんなが祝ってくれた。何十回も言ってきた人もいる。

 嬉しかった。


 その日、ボクは嬉しくても涙が出るのだと知った。


お祭り。書くのが速くなった気がします。

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