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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ショート作品集

私がダイエットに成功した理由

作者: 大塚めいと

若干のグロ描写があるため、お読みになる方によっては不快に感じるかもしれません。


挿絵(By みてみん)





匂いがする。冬場によく嗅ぐ匂い。石油ストーブのタンクに似た匂い。

多分、さっきまで私が乗っていたバスが燃え盛っているのだろう。






綾瀬ミキは親友の馬場恵理奈と共に夏休みを利用して遊園地に向かう途中だった。






世界一の落差を誇るジェットコースターに乗ることを楽しみにしていた二人だったが、予期せぬアクシデントに巻き込まれる。






二人が乗ったバスが山を越える道中、対向車線から暴走者が乱入し、それを避けようと運転手はハンドルをきった。

それがいけなかった。バスはガードレールを突き破り、奈落の崖を滑り落ち、林の中にダイブした。






綾瀬ミキは不幸中の幸いにも、バスがラップの芯の様に横回転しながら落下していく最中、窓から体を放り投げられた。

そのおかげでバスが地面に激突した衝撃と、その直後の炎上から回避することが出来た。

車外に放り出された綾瀬ミキはさらに幸運なことに、落下の最中、木々の枝群がクッションの役割を果たし、地面に叩きつけらたダメージを最小限に抑えることが出来たのだ。






綾瀬ミキは朦朧とする意識の中、はるか遠くからバスと木々が焼ける雄叫びと何人かの人間の悲鳴を聴いた。






恐かった、体が震えた。全身を打ち付けられ、重傷は免れたものの、2本の足の骨は折れているらしく、立ち上がろうとすると激痛が走った。






「恵理奈…ゴメン…あと他の人達も…今の私には助けに行くことが出来ません…。」






綾瀬ミキは心の中で呟いた。謝罪した。しかし、それと同時に両足が折れていることに感謝していた。






もしも立ち上がって事故に巻き込まれた恵理奈達を助けることが出来る状態であれば、その地獄のような惨状を目の当たりにしなければならなかったから。足が折れていれば、動くことが出来なかったから助けに行けなかったと自分に言い訳が出来るから。






さっさと終わりにしたかった。綾瀬ミキはこの悪夢を早く終わらせたかった。それにはただ黙って余計な体力を使わずに救助を待つことしか考えられなかった。






「ごめんなさい…ごめんなさい!」






心身共に疲れ果てた綾瀬ミキはやがて深い眠りについた。






「ミキちゃん、ミキちゃん!」






誰かが呼んでいる?夢を見ていたのか見ていないのか分からない程に深い眠りについていた綾瀬ミキは、何者かの呼びかけにより、目を覚ます。






「ミキちゃん!大丈夫?無事なの?」






その声の主には聞き覚えがあった。






「恵理奈…?恵理奈なの?」






間違いなかった。洋画の吹き替えの声のようなキレイでハリのある声。一緒にバスに乗っていた馬場恵理奈が今、目の前にいるのだ。






しかし、綾瀬ミキは眠りから覚め、瞼を開けているハズなのに、視界は真っ暗で親友の姿を確認することが出来なかった。恐らく、今は夜中なのだろう。






「良かった…ミキちゃん…無事だったんだね。」






「恵理奈…ゴメンね…私、てっきり恵理奈が……うぅ。」






ついさっきまで親友が生きているという望みなど一切考えておらず、助かっているワケない。と初めから諦めていた自分がたまらなく恥ずかしくなった。

恵理奈が生きていた喜びと、自分が情けなく思ったことの2種類の涙を流して綾瀬ミキは号泣した。






二人はお互いにコンプレックスを持ったもの同士、苦しみを分かち合う仲間だった。






綾瀬ミキは中学2年生の時点で体重が70キロ近くある巨体を周りによく嘲笑され、それを劣等意識していた。






馬場恵理奈は自身の姓名がたまらなく嫌で、周囲から「ババちゃん」だとか「ババさん」と呼ばれることをひどく嫌っていた。

将来は苗字がカッコいい男性と結婚することが夢だと語っていたこともある。






そんな二人が地獄の淵からの再会を果たしたのだ。暗闇でお互いの姿が確認できなかったものの、声を掛け合うだけで、語り合うだけで心の充実を確かに感じ合えた。






「恵理奈…怪我はないの?」






「右手がちょっと痛い…火傷したみたい。」






「火傷?大丈夫なの?」






「うん…ミキちゃんは?」






「…多分折れてる。両足の骨が折れてると思う。全然動かせないの…。」






「そんな…でも、命には別状ないみたいで良かった…安心して。一緒に助けを待とう。そばにいるから。」






「…恵理奈…ありがとう…。」






二人はお互いに声を掛け合って勇気を分かち合って救助を待った。

学校のことや家族のこと、今頃ニュースになっているんじゃないかだとか、他愛のない会話を続け、ほんの少しでも[日常]を取り戻そうと必死だった。






「恵理奈…事故が起きてからどれぐらいたったかな…?」






「わかんない、ケータイも失くしちゃったし…。」






「そっか…。」






「…ミキちゃん、…ひょっとしてお腹が空いたんじゃない?」






「え?なんで分かったの?」






「ミキちゃんが時間を気にした時って大体お腹空いた時じゃん。」






当てられた、こんな状況で空腹の事なんか言ってもしょうがない、綾瀬ミキは必死で「お腹が空いた」などと言わないように気を使っていたのにも関わらず、親友には簡単に見破られてしまったのだ。






「ごめん、実はそうなんだ…。」






綾瀬ミキは後悔と恥ずかしさが入り混じった告白をせざるを得なかった。






「ミキちゃん、良かったら…食べる?」






「…食べる?って?」






「実はお弁当入れといたバッグは無事だったの、手羽先の唐揚げだけど…食べるでしょ?」






スパイスの効いた風味の手羽先の唐揚げは綾瀬ミキの大好物であり、コンプレックスの体型を生み出した元凶でもあった。






「いいの?だってそれ恵理奈のでしょ?」






「いいよ、自分の分もあるし…。もともとミキちゃんが食べると思って一杯作って持ってきたの。」






綾瀬ミキはこれほどまでに親友の存在がありがたいと思った時はなかった。その心遣いに深く感謝し、うっすらと瞼に熱が帯びた。






「…ミキ、ありがとう。」






「いいよ、ホラとりあえず一個ね。助けがいつ来るか分からないから大事に食べないとね…。」






綾瀬ミキは暗闇の中、手探りで恵理奈から手羽先を受け取った。






「…おいしい…。」






バス火災で余計な熱が加わったのか、やや焦げ臭く、肉が固くなっていた所を除けば最高の味だった。綾瀬ミキのこれまで の生涯の中で一番の味わいだった。






ひと噛みひと噛みを大事に、ゆっくりと味わい、飲み込んだ。






「恵理奈、ご馳走様。」






「どういたしまして…もっとあるから、食べたくなったら言ってね。」






それから20時間が経ち、綾瀬ミキは救助隊により救出され、病院へ搬送された。生存者は綾瀬ミキ一人だけだった。











「先生!ミキは…ミキは無事なんですか?」






「綾瀬さん、ミキちゃんは両足を骨折、そして頭部を強打した影響で一時的に視力を失ってはいますが、命に別状はありません。」






「目が見えないんですか?」






「奥さん、落ち着いてください。一時的なものなので、おそらく3日もすれば元に戻るでしょう。それよりもっとデリケートな問題があるのです。」






「デリケート?どういうことですか?」






「ミキちゃんが発見された時、そばには友達である恵理奈ちゃんの死体も一緒でした。」






「それは、救助隊の方にききました…かわいそうですが…それが何なんですか?」






「恵理奈ちゃんはバス火災により、体のほとんどが火傷に負わされていました…特に右半身はひどいもので…救助隊の人間ですら絶句したそうです…。」






「先生、そんな話をなぜ私に?私はミキの母親です。恵理奈ちゃんは娘の友達でしたけどそんなことまで私に言う必要はあるのですか…?」






「それが…何と申し上げれば…。恵理奈ちゃんの…恵理奈ちゃんの死体の…死体の指が無いのです…右手の指が全て引きちぎられたように無くなっていたのです…。」






「だから、なんでそんな話を⁉」






「綾瀬さん…落ち着いて聞いて下さい。ミキちゃんのそばにはですね…。骨があったんです…人間の指の骨が五本落ちていたのです…。」






「……先生、まさか…まさかそんなこと…。」






「お察しの通りです…。」






「つまり、娘は…ミキは…恵理奈ちゃんの指を…。」






「そうです。食べていたんですよ。」






事故から10年が経った。





人々の記憶からは過去の凄惨な出来事などとうに風化させられていた。そして今、日本中の人々の関心を惹きつける一人の女性の姿があった。






その女性は日本人として極めて稀なミス・ユニバースに選ばれたファッションモデルだった。

女性は語る。かつては自分は肥満体形に悩まされていたが、ある一つのキッカケで克服することができたと。






そして体型維持の秘訣は菜食主義になることだと語った。











終わり

目をつむって物を食べると意外と何を食べているのか分からないことがある。

という事を題材に何か書けないかと思い、この作品を執筆してみました。


お読みになって気分が悪くなってしまった方と馬場恵理奈と同姓同名の方が

もしいらっしゃたら、申し訳ありませんでした…。

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