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4話 デート②



会計を済ませ、ラーメン屋を出る。暖かい店内に居たせいだ。外はあまりに寒く感じて、慌てるようにしてポケットに手をしまった。


「どうだった?」

「すっごい美味しかった!それにね、楽しかった!」


彼女の上がりきったテンションは、食事を終え店を出ても治まらない。


正直何がそんなに楽しいのか分からないところにまでテンションが上がっていて、なんだか怖いくらいだった。


彼女の中のラーメン屋の印象はむしろ怖いところだったそうだ。それがむしろ和気あいあいとしたムードの店内に、呆気にとられたような顔をしていた。もっともそのことに触れると怒られるので、金輪際触れないことにしているが。



「ここはよく来るの?」

「まあラーメンといえばここだね。店も広いし、雰囲気的に多少はゆっくり食べれるでしょ?」

「うん、最高」


紹介された側のくせに、ほんのりドヤ顔で僕を見る。高嶺の花の女神さまなんて思われちゃいるが、撤回だ。案外と抜けたところが人間くさい。



そのまま二人並んで歩き出す。駅前から続くアーケード通りを選んだ。両脇に並ぶ店には、いつもより人だかりができているように思える。その真ん中を歩きながら、談笑と興じる。



「じゃあ、お家はこの辺なんだ」

「この辺って言うと勘違いされそうだけど、歩いて行ける範囲かな。ここからなら僕の足で十五分くらい」

「最寄り駅で言うと……」

「あそこから二駅くらい行ったとこ。まあ僕は駅前までは歩いていくけど」


市内で一番大きな駅から歩いてだいたい三十分程度のところに自宅がある。現在地のアーケードからは、十分と少しという話だ。


ちょうど以前出会った場所である通りの近くということもあり、自宅の話となった。いくらなんでも彼女の自宅については、そんな遠慮を無視して美澄日和は語り出す。


「うちはね、地下鉄に乗って四駅かな」

「へえ」

「そういえば、近所に美味しいって評判のご飯屋さんがあってね。今日のお返しに、今度紹介するね」

「……ありがとう」


お返しはいいだとか遠慮しても仕方がないことは、今日一日を通じてよくわかった。どうせまた無駄な議論となって、僕が負けるだけだ。



「ほかには行きたいところは?」

「うーん、成海くんは例えばラーメンのあとは何をするの?」

「その時々だからなあ。ゲーセンとかカラオケとか。あとはファストフードかカフェで適当に喋ってるくらい」

「意外と変わらないかも?」

「でしょ?行く店は違ってもさ、やってることって大差ないよね」


そもそもが放課後に少しして、諸々の移動時間などを含めればいい時間が経った。そして店を探して、食事の時間を込にする。


すっかり微妙な時間のせいで、どこに入るにも難しい。おかげで目的地も決めずに、ダラダラと練り歩いている。そして時おり目に入った建物について、あーだこーだと言い合う。そう悪くない時間だ。



「あんまり暗くなる前に帰ろうか」

「え、でも」

「親は心配してたでしょ?」

「うっ、それを言われると……」


今日初めて気まずい顔をした。以前の迎えの連絡の早さなどから親の心配具合は察せられた。ましては愛娘だ。ここ最近帰りが遅いなどと余計な心配をさせるべきではない。


「ここから駅まで行ったら、案外いい時間じゃないかな」

「……うん」


すっかりと意気消沈だ。帰るのが嫌なのか、親に心配はかけたくないのか。多分両方だ。



少しだけテンションの下がった彼女とともに歩く。


「あっ」と小さな声を零した彼女は、少しだけ歩みを止めた。それから何事もなかったように歩き出す。僕は思わず彼女の手を引いて、彼女が驚いたように振り返った。


「ああいや、別に何ってことはないんだけど……心残りみたいなのはない方がいいかなって」

「……いいの?」


ちらりとスマホに目をやる。表示された時刻は、まだ何とか許容できる範囲だろう。門限などがあるとしたら、そこまで考えて怒られるのは僕じゃないと開き直る。


「じゃあ、あれ。やってみたい」


指差した方にあるのは、騒音に満ちたゲームセンター。それから、そこにあるプリクラコーナーだ。

げぇっ、と声に出さなかったのは我ながら褒められるべきだ。それから念の為に眉間を指で解す。


彼女を見れば、期待に満ちた目をしている。今さらノーとは言わせない迫力がある。



「知ってんの?あれがなにか」

「うん。やったことはないけど」

「ああいうのは基本、女の子同士とか……そういう」

「嫌だった?」

「……嫌じゃねえよっ」

「む、無理しなくて」

「無理じゃねえって。好きだよ、大好きだよ」



そんな目で見るなと言いたい。その目で見られて、はいそうです苦手です嫌いです、などと言えるヤツがいるならそれはきっと男じゃない。並の人間なら最終兵器レベルのものをポンポンと出すからこそ彼女は女神なのだろう。


学年の男どものガチ恋具合と、その無様さを考えると女神というより小悪魔と呼ぶべきだろうが。



「ほら早く」


いざ目の前に行けば、彼女は尻込みしている。ただ制服の人間が居ていい時間はかなりギリギリだ。悠長にしている暇はない。僕はため息を吐いて、仕方なしに彼女の手を引いて招いた。危険な絵面だったが不可抗力だ。


「お好みのポーズは?」

「わ、わからない」

「じゃあ無難なとこか。画面にオススメみたいなの出るから、気に入ればそれに適当に合わせて」

「がんばる」

「……いや頑張らなくていいから楽にして」


完全にかかっている彼女は、ひどく真面目に指示通りの動きをしている。厄介なのは僕が指示に従わないことにもキレてくることだ。たかだかオススメポーズなのだから、そこまで厳密にならなくてもいいのに。


そう言ってみても、聞く耳を持つ余裕すらないようだ。






「満足ですか、お嬢さん」

「は、はい……!」

「……いやね、あなたに照れられると僕が困るんですが」

「……それは、その、でも、だって」

「でもでもだってじゃなくてな。まあ喜んでくれたなら良かったです」

「そ、それはもう!宝物にさせていただいて……」

「いや別にそこまでは」



結局撮影中はハイになって、機械の求めるポーズをノリノリでやったくせに。後から印刷されたモノを見て照れ始めている。まあ……なかなかに思い切りはいいらしい。本当にいつか襲われかねないと不安になる。


「電車に乗る前に、先にお父さんに迎えに来てもらいなね」

「……?駅で待ちますし」

「いいや、危なっかしくて安心して帰れねえ」

「……子どもじゃないです」

「……子どもじゃないから心配なんだけど」

「なんです?」

「なんでもねえよ」


呆れたような僕のため息に、彼女は不満そうで。帰り際ギリギリまで、何度も何度も僕にどういうつもりだと尋ねてはポカポカと叩いてくる。痛くもなんともないその仕草は、ずいぶんと可愛らしいと同時に、ずいぶんと鬱陶しい。


僕らの女神さまというのは、なかなかに面倒な性格をしているみたいだと誰かに言いたいような秘密にしたいような。矛盾した感情二つに、僕はもう考えるのをやめた。










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