第一章 第三話 守護獣
あの場から逃げ出した私達は城の廊下を、こそこそと歩いていた。
「……本当に大丈夫?」
後ろを気にしながら、風花が小声で言う。
「大丈夫だって。母上たちは今、父上たちに怒ってるから」
私は少し得意げに答える。
しばらく歩くと、見慣れた扉の前にたどり着いた。
「ここが私の部屋」
扉を開けると、風花は少し驚いたように部屋の中を見渡した。
「へえ……」
私は椅子に腰を下ろしながら言う。
「ねえ……もっと和国の話とか風花の話聞かせてよ」
風花も私の隣に座って話始めた。
「じゃあ……シャーロット、和国は陸軍と海軍どっちが強い国でしょうか?」
「え?和国は島国だよね……ってことは海軍?」
風花は満足げに微笑む
「そうだよ。和国海軍は世界二位の規模と戦力を持つ海軍なんだ」
「じゃあ……グレイシアと逆だね。雪鬼のグレイシアと言われるくらいの陸軍国家だからね。」
「うん。国によって戦い方も、強みも全然違うよね」
少しだけ、静かな時間が流れる。
「……ねえシャーロット」
風花が、少しだけ真面目な声で言った。
「貴女の守護獣は何?」
私は思わず言葉に詰まる。
「……なんで?」
「さっき訓練場で、周りの騎士たちが話してた」
風花は、私の顔をまっすぐ見た。
「貴女の守護獣は恐ろしいって」
胸の奥が、少しだけざわつく。
私は視線を逸らしながら、小さく答えた。
「そうだよ……」
少しの沈黙。
風花は、優しく問いかける。
「じゃあ……その……シャーロットの守護獣って……どんなの?」
「アイスドラゴン……東洋だと……氷の龍って言うのかな?」
そう言ったあと、私は視線を落とした。
……また、怖がられるかもしれない。
胸の奥が、じわりと重くなる。
けれど——
「何が恐ろしいの?」
風花は、あっさりと言った。
思わず顔を上げる。
「龍って、神聖で綺麗なものじゃない?」
「……え?」
理解が追いつかない。
「だって、東洋ではそうだよ?龍は民を守る存在で、王の象徴でもあるの」
風花は、まっすぐ私を見る。
「恐ろしいなんて……よく分かんない」
胸が、強く揺れた。
「でも……ドラゴンは……」
言いかけて、言葉が詰まる。
今まで何度も言われてきた言葉が、頭をよぎる。
——恐ろしい
——危険だ
——王にふさわしくない
「ドラゴンは、恐怖とか怪物の象徴で……」
ようやく絞り出した声は、小さかった。
でも風花は、迷いなく言う。
「それ、西洋の考えでしょ?」
はっきりと。
「少なくとも私は、そうは思わない」
その言葉は、驚くほどまっすぐで。
逃げ場がなかった。
「氷の龍なんて、すごく綺麗だと思うけどな」
ぽつりと、そう付け加える。
胸の奥で、何かがほどける。
こんな風に言われたのは、初めてだった。
胸の奥にあった重たいものが、少しだけ軽くなる。
「……変なの」
思わず、そんな言葉がこぼれた。
「え?」
風花が首をかしげる。
「今までずっと、怖いって言われてきたのに……風花は綺麗だなんて言うんだもん」
少しだけ笑うと、風花もつられて笑った。
「だって本当にそう思ったんだもん」
その言葉は、あまりにも自然で。
だからこそ、嘘じゃないって分かった。
少しの沈黙。
でもさっきまでとは違う、どこか心地いい静けさだった。
「……ねえ、風花」
私は、少しだけ迷ってから言う。
「これからも、こうやって話してくれる?」
風花は一瞬だけ目を丸くして——
すぐに、柔らかく笑った。
「うん。もちろん」
その答えを聞いた瞬間、胸の奥がじんわりと温かくなる。
それだけなのに、なぜかすごく嬉しかった。
「よろしくね、風花」
「こちらこそ」
小さく笑い合う。
それだけで、もう十分だった。
——このとき私は、初めて"親友"を得たんだと思う。
前回に引き続き読んでいただきありがとうございます。まだまだ不慣れで読みづらかったりするかもしれませんので分からない点や誤字脱字などはコメントのほうに書いてくださると嬉しいです。それと今回で第一章が終わりになるので次の話から第二章です。




