第一章 第二話 友
「ねえ、風花さん……聞きたいんだけど」
私は風花さんの隣にしゃがみ込む
「和国の城と比べて、グレイシアの城ってどう思う?」
風花さんは迷う様子もなく答える。
「まずは結論から言うと……全く違う」
「そんなに?」
思わず聞き返すと、風花は少しだけ楽しそうに目を細めた。
「うん。まず一番大きな違いは、城の考え方」
「考え方?」
「グレイシアの城は"入れない城"。でも、和国の城は"入れる城"なんだ」
意味が分からなくて、私は首をかしげた。
「入れない城?入れる城?どういうこと?」
すると風花さんは説明を始めた。
「和国の城はわざと門の中に入れるの。」
「入れる……って、それ、危なくない?」
私の反応が予想通りだったのか、風花さんは小さく笑った。
「普通はそう思うよね。でも、和国はわざと第1第2の門くらいまで敵を入れるの」
「え?けど……そんなことしたら城が落とされちゃうんじゃ……」
「最深部までは入れないよ。そこが重要なの。」
続けて風花さんは説明する。
「ある程度誘い込んで城壁の上とかから弓矢とか槍を使い攻撃して混乱したところをいっきに攻めて逃げ道も塞ぐの」
私は、思わず想像してしまう。
入り込んだ城の中で、四方から攻撃される光景を。
「……怖い」
ぽつりと呟くと、風花さんは少しだけ真剣な顔になった。
「だから"入れる城"。敵を確実に逃さないための城なんだ」
「……なるほど」
守るために閉じる城と、
倒すために開く城。
同じ"城"なのに、考え方がまるで違う。
あっけにとられながらも、風花さんの話に感心していると。
「次はこの盾のことも話そうよ」
風花さんはさっきより距離を感じさせないような声色で話しかけてくれた。
「……いいよ」
そう答えた私の声も、自然と柔らかくなっていた。
そこからは、時間を忘れて話し続けた。
気づけば、互いに名前を呼ぶとき、
"さん"をつけることもなくなっていた。
「シャーロットの国って、面白いね」
風花がそう言って、少し照れたように笑う。
「それを言うなら、風花の国のほうが独特じゃん」
私が返すと、二人同時に笑ってしまった。
「ねえ風花、次は何の話をする?」
そう私が聞いたらなぜか風花はくらい顔をして少しうつむいてしまった。
「風花?どうしたの?私なんかしちゃった?」
うつむいたままの風花は首を横に振った。
「さっき初対面だったシャーロットに、いきなりひどいこと言っちゃって……」
風花の声は、とても小さかった。
「謝ろうと思ったけど……なんて言えばいいか、分からなくて……」
胸の奥が、きゅっと締めつけられる。
「……大丈夫」
私は、風花の前にしゃがみ込んで、目線を合わせた。
「最初は誰だって警戒するよ。まして初めての国で、相手があんまり良い印象のない西洋人なら、なおさら」
少し間を置いて、私は笑う。
「それに、あれがなかったら、こうやって話すこともなかったかもしれないし」
風花は、驚いたように顔を上げた。
「……本当に?」
「うん。本当」
そう言うと、風花は少しだけ安心したように息を吐きそして、小さく微笑んでいた。
「そう言えばまだ城の見学全然できてなかったね。どこかいきたい所ある?」
「できるなら……少し城内を散策したいな」
「わかったついてきて」
そして私達は庭園や建物を見てまわった。
「すごいねシャーロット、建築様式や文化全てが和国と全然違うよ!」
「ちゃんと見れてよかったよ」
私は風花をつれてまた訓練場に戻ってきた。
「あれ?シャーロット戻ってきちゃったよ?」
「ねえ……風花、貴女の魔法と剣術が気になるからさ……少し手合わせしようよ」
風花は少しびっくりしたような顔をしたがすぐに私から木刀を受けとると刀を構えた。
「シャーロット……何か規則はある?」
「とくにないよ……全力で来て」
私の言葉が終わると風花の構えが、ふっと沈む。
次の瞬間、地面を蹴る音。
——速い。
視界から消えた。
横から衝撃。
咄嗟に木刀を合わせるが、腕が痺れる。
軽い。なのに重い。
連撃。連撃。連撃。
乾いた音が訓練場に弾ける。
「はっ……!」
息が乱れる。
一撃は軽い。だが、間がない。
防ぎ続けなければ崩される。
「シャーロット、全部受けてる」
風花は笑う。
——なら。
私は一歩踏み込んだ。
振り下ろす。
風花は紙一重でかわす。髪が揺れる。
その隙に掌を突き出した。
「《氷槍》」
空気が震え、氷が形成される。
一直線に放つ。
風花は跳躍。
「《木拳》!」
地面が割れ、太い根が唸りを上げる。
防御陣を展開。
氷と木が衝突し、白煙が上がった。
砂煙の向こうで、風花が笑う。
「楽しいよ……シャーロット!」
胸が熱くなる。
「まだいくよ!」
魔力をいっきに放出した。
空気が冷える。
「《氷壁》!」
同時に——
「《大地のうねり》!」
凍てつく壁と、暴れる木根が正面衝突。
凄まじい衝撃波。
訓練場の砂が舞い上がる。
見学していた騎士たちがざわめいた。
「すごいよ!こんなに戦えるの、父上と母上以来だよ!」
「それはお互いさまよ!私も久しぶりに手応えがある戦いをしてるよ!」
息が荒い。
でも、止まれない。
魔力をさらに放出し制御する。
空気が軋む。
地面が震える。
騎士の一人が叫ぶ。
「お、お待ちください姫様!」
2人の世界にはいっていて聞こえない。
「《大森林》!」
風花の背後に巨大な魔法陣が展開する。
緑の光が渦巻く。
「《氷河》!」
私の足元にも巨大な陣が広がる。
凍気が暴風のように吹き荒れる。
魔法が放たれようとするその瞬間。
——重圧。
全身が地面に叩きつけられた。
魔法陣が霧散する。
息が詰まる。
ゆっくり顔を上げると——
そこに立っていたのは、微笑んでいない母上だった。
風花の方にも、同じく冷たい視線を向ける桜様の姿。
「「貴女達」」
静かな声。
だが訓練場の誰もが凍りつく。
「ここを消し飛ばす気だったのかしら?」
私と風花は、並んで正座させられていた。
「違うの、母上。風花は悪くないの……。私が風花と少し手合わせしようって言ったから……」
「いや……誘いに乗って、シャーロットが全力を出すように煽ったのは私だから……」
私たちが言い合う間、母上たちは腕を組んだまま、じっとこちらを見下ろしていた。
「「……二人とも……」」
静かな声だった。 だが、その一言だけで背筋が自然と伸びる。
やがて、母上が一歩前に出た。
「シャーロット……まずは貴女からです。」
訓練場の空気が、さらに張りつめる。
「あんな強大な魔法がぶつかり合えば、この一帯がどうなるか想像できたはずです。 ここが訓練場でなければ、被害はもっと大きかったでしょう。」
母上の視線がまっすぐ私を射抜く。
「それ以前に、護衛もつけずに城内を歩き回り、他国の姫に怪我をさせかねないことをしたのです。王族としての自覚を持ちなさい。」
「……ごめんなさい……」
私は小さく頭を下げた。
すると今度は、風花の母——桜様が前に出る。
「次は風花……貴女です。」
風花の肩がぴくりと揺れた。
「まず一つ目。何も言わずに会場からいなくなったことです。 グレイシアの方々に対して無礼にあたります。よく反省なさい。」
風花は小さく頷く。
「……ごめんなさい……」
桜様は続けた。
「そして二つ目。シャーロットちゃんが本気で戦うように煽ったこと。」
その声は静かだったが、どこか厳しさがあった。
「貴女たち二人は、王族の中でも特に大きな魔力量を持っています。 魔力制御が未熟な状態で全力の魔法を放てば、何が起きるか分かりません。」
桜様は、静かに言い切る。
「自分の力の重さを理解しなさい。」
「……ごめんなさい……」
再び、重い沈黙が訓練場を包んだ。
その時だった。
場の空気をぶち壊すような、豪快な笑い声が響いた。
「バハハハハ! 清流殿の御息女はすごいですな! シャーロットと対等に戦える者は、儂とリーネくらいじゃったのに!」
振り向くと、そこには顔を真っ赤にしたドーラルド様が立っていた。
その隣では、同じく酒瓶を手にした父上が笑っている。
「いやいや、ドーラルド様の御息女もすごいですよ。 風花と互角に戦う者は桜くらいですから。」
すっかり意気投合した二人は、酒を飲み交わしてベロベロだった。
空気も読まず現れた二人に、母上たちの視線が突き刺さる。
「ドーラ」
「あなた」
二人の声が、ぴたりと重なった。
「「見ていたなら、さっさと止めなさいよ!!」」
母上たちの意識が父上たちへ向いた、その隙だった。
私はそっと風花の方へ身を寄せ、小声で囁く。
「ねえ風花……私の部屋に行こ……」
風花は少し驚いた顔をした。
「けど……またいなくなったら、母上たちに怒られるんじゃ……」
私は小さく笑う。
「大丈夫だよ……バレないように行こ」
風花は一瞬だけ迷ったあと、小さく頷いた。
「……わかった」
父上たちの笑い声と、母上たちの怒鳴り声が訓練場に響く中——
私たちはそっと立ち上がり、誰にも気づかれないようにその場から抜け出した。
こうして私と風花は、静かに訓練場を後にした。
前回に引き続き読んでいただきありがとうございます。まだまだ不慣れで読みづらかったりするかもしれませんので分からない点や誤字脱字などはコメントのほうに書いてくださると嬉しいです。




