人殺し
次の日、夕方。
その日は一日中晴れていた。雲ひとつない、快晴だった。三番はその日、いつものあの女の部屋ではなく、女が同級生と見られる奴らに殴られているところを初めてみた、あの人通りの少ない公園にきていた。
あいつはまた、男四人に囲まれて、殴られたり蹴られたり…よくいう暴力を振るわれていた。
やっぱり人は通りかからない。僕が上空にいるとは思いもしないだろう。
僕は上空からスマホとやらを取り出して、写真と動画を撮った。音にはどうやら気が付かれていないようだ。それをそのまま、警察へと送りつける。
確か、これでいいと女が言っていたような気がする。これは心霊現象になってしまうから、後で…やるべきことが終わったら消すことになるけれど。
地上から、笑い声が聞こえてきた。
楽しそうで、狂気に満ちた笑い声。僕と同族だ。嬉しくなって、口元が緩んだ。
「おーい、ちょっと落ちるの早くない?」
男の四人のうちの一人が、そう言って腹を蹴り飛ばした。
力が入っていないのか、体は重力に任せて蹴り飛ばされた方向へと転がる。
目は開いたまま、そのまま瞬きすらもしない。動かないのだ。まるで壊れてしまった人形のように。
「おい、なんか…おかしくね…?」
「何が?」
先ほどまで女に暴力を振るっていた男のうち一人が、あの女の様子に気がついたようだ。
「だって、目も動かないし、それに、力全然入ってないし…」
「馬鹿野郎そんなわけないだろ」
男たちはみんな笑っていた。
先ほどの楽しそうな表情ではなく、どちらかというと引き気味で。
苦笑いをしていた。
男の一人が女に近づいていく、そのタイミングで、後ろから声をかけられた。
「なんでもいいから早くしてくれなぁい?私、もっとみんなのカッコいいところ見たいなぁ」
女四人は笑っていた。
男たちは女のその言葉にハッとして、顔を見合わせた後、全員で女に近づいていく。
結局、人間はこんな物なんだな。
「あーあ、死んじゃってるね。その子」
公園の入り口に誰かが立っている。
全身真っ黒な服を着ている、人間ではなかなか見ないようなイケメンだった。
女たちは突然現れたイケメンに動揺しつつも、色目を使い初めているようだ。
「誰だ?お前」
男たちは突然現れたイケメンを見て、不思議そうに、敵意丸出しで見つめていた。
イケメンはその様子を見て不敵に微笑んだ。
「同業だよ、君たちと同じ」
「は?どこ中だ、お前」
四人のうちの男の一人がそう言って近づいてきたので、イケメンは一瞬瞬きの後、きょとんと男たちを見つめた後、大声で笑い始めた。
「何がおかしいんだ!」
笑われたことが気に食わないのか、男たちが殴りかかってきた。
イケメンは全ての拳を避けて、また男たちと向かい合った。
「ごめんごめん、言い方が悪かったね。そっちじゃないよ」
「そっち?俺たちにはそっちもこっちもねぇ。中学生だ」
自信を持ってそういう男四人にイケメンはまたもやキョトン顔をして当然のことのように言った。
「?中学生でもあり、人殺しでもあるでしょ?」
さっきまでお祭り騒ぎだった公園は一瞬で凍りついた。
「まだ分かってないの?君たちの目の前には人の死体、そして血がついた拳。撲殺したってことだよね。すごい力を持ってるんだね」
イケメンはそう言って笑った。
学生たちはイケメンの褒め言葉には全く反応せず、虚空をじっと見つめている。どうやら、人殺しという言葉から抜け出せていないようだ。
「そっちの女の子たちも、私たちは何もしてませんって表情してるけど、その場で手助けもせずにただじっと見つめて動画を撮ってきゃっきゃしてただけなら、加害者に含まれるよね」
女の子たちは、引き攣った笑顔でイケメンを見た。
「お兄さん、冗談はやめてよ…」
女子四人は、イケメンの目を見つめた。
真っ黒い、闇のような目に、もう光は灯っていなかった。この人は、そういう目をしている。
「さっきまで、人を殴って、蹴って、楽しそうにしていたね。その雰囲気をはどこに行っちゃったの?僕とも話そうよ」
イケメンは微笑んだ。
「初めて人を殺した感想は?その状況を見ていてどう思った?ほら、答えて。知りたいな」
女子四人はその場でへたり込んでしまった。
引き攣った笑顔を張り付けたままだ。
「そっちの男子たちも、こっちにおいでよ。ほら」
イケメンへたり込んでしまった女子四人を置いて、男子四人の方へと歩いていく。
男子四人はその場から足が動かなくなってしまったようで、地面に足が張り付いたまま、全く動かない。
楽しそうに近づいてくるイケメンは、八人にとっては恐怖でしかないようで、どうやらまともに話せなさそうだ。
「そう、みんなそうなんだね。一瞬で被害者面」
イケメンは怒っているのか、怒りに満ちた表情に一瞬で変わってしまった。
だがその表情はまた普通の顔に戻った。今度は楽しそうに笑っていたのだ。
「どうやら時間だね。誰かが警察を呼んだのかも」
「え?警察…?」
女子四人のうちの一人が、信じられないとでも言いたそうな表情で呆然と呟いた。
「聞こえない?ほら、ピーポーピーポーって。遠くから聞こえてくるよ」
耳を澄ますと、八人はまずい、という表情になった。
「どうする?ほら早く考えて。考えないと」
八人はイケメンが入ってきた、公園の入り口がある方向とは反対方向へと駆け出した。
そのまま柵をこえて逃げていく。
「逃げるか。うん、やっぱりそうだよね。だけど、逃げる方向はそっちでいいのかな?」
イケメンがそう聞いてきた途端、目の前から警察が出てきた。続いて後ろからも。
八人はすっかり囲まれてしまった。
気づけば、自分のことを人殺しだと名乗ったイケメンはもういなくなっていた。




