人間界というもの
冥府を出て人間界に戻ってきた。
今の人間界は忙しなくて、汚くて、嫌いだと言う死神が多い。僕も、それには共感できるところが多い。
現に、死亡者が増えて、僕は残業をする羽目になってしまったし、昔の人間は寿命が短かったけど自ら死のうとする奴はそこまで多くなかったから、そこまで仕事は忙しくなかった。
早く片付けて冥府に戻りたい。ついでに風呂にも入りたいものだ。
三番はそう思って、目的の魂を見つけるために目を凝らす。まだまだ遠いところにありそうだ。一度地上に降りるよりも、このまま空を飛んで向かったほうが早いな。
三番はそう思って地上から目を離そうとした。
しかしそのタイミングで、見覚えのある人間の女の姿が見えた。
名前は…なんだったか。どうでもいいから覚えなかった。
場所は、明らかに女の家からは遠く離れた、人が全く通りかからない、ベンチとちょっとした前後に揺れる馬みたいな遊具しか置いていない公園。
昨日…というか、一昨日と全く同じ、桃色のセーラー服を着ていた。
女のカバンと見られるものがそばに投げ捨てられていて、大体八人くらいの男女に殴られているところを動画で撮影されていた。
殴っているのは男四人。動画をとっているのは女四人だ。それぞれが楽しそうに笑っている。
三番は上空から、しばらくその様子を眺めていた。大体一時間くらい経っただろうか。
男女四人はそれぞれのスマホを眺めたり、男の腕に絡みついたりしながら、公園から出ていった。
周囲に誰もいないことを確認してから、三番は倒れている女の元へと向かった。
「おい」
女は目を開いたまま、瞬きすらしない。
目を開けたまま、気絶しているようだった。
その周囲だけ、時が止まってしまったかのような、死んでしまったかのような。
しばらく女の顔を眺めていると、一筋の涙が、女の頬を伝った。
まだ生きている、意外としぶといやつなんだな。
そう思いながら、三番は立ち上がった。
ふと風が吹いて、羽織っているマントを揺らした。生暖かい風だった。
「…チッ」
三番は舌打ちをして、女を公園に置いて仕事を再開した。
今すぐあいつを助けてもいいけど、僕は死神。そしてあいつは人間。
僕みたいな幽霊が見える、ちょっと特別な人間。
そこにもちろん、境界線は存在している。だからまぁ、せめてもの情けだ。




