休息
次の日、夕方。
ビルの隙間を窮屈そうに夕陽が沈んでいく様子を眺めながら、三番は魂をひたすら集めていた。
人間界を彷徨う魂のうちの、今日の分をひとまず回収し終えた三番は、手元にたくさん集まった魂の数を数えた。
だいぶ集まってきたから、一度冥府に置いてきた方がいいかもしれない。このままだと移動の邪魔にもなる。
三番は一度冥府に戻ることにした。
「おかえり三番。続々と任務完了の報告がきていて、私はとても驚いているよ。これからこの制度を取り入れようかな」
最悪だ。冥府に帰ってきた途端、こいつに捕まるなんて。
「うるさい話しかけるな。僕は今忙しいんだから。玉座にずっと座りっぱなしの君とは違ってね」
「あ、そうそう三番」
「聞けよ」
ついに老化で頭がおかしくなったのだろうか。
「最近、仕事の休憩で人間の女の子と会ってるみたいだけど、何かあったのかい?」
それを知っているやつは僕自身以外いないはずなのに、なんでこいつが知っているのだろう。
いや…待てよ…。
「もしかして監視してるの?」
そうだとしたら、今すぐこいつのことを殴り殺したい気分になるんだけど。
「おや?知らなかったのかい?私は、君たちが生まれたその瞬間からずっと監視しているよ」
「気色悪い、今すぐやめろ」
「嫌だよ、だってそういう義務が私にはあるんだから」
「知るか」
本当に気色悪い。会話の内容も聞かれてたりしないよな。もしそうだったらこいつストーカーじゃん…。
「それで?どうなんだい?あの人間の女の子とはどんな関係なんだい?」
「…わかった教えるけど、その前に、僕の質問にも答えてくれる?」
「いいよ」
神様が了承してくれたので、場所を変えて話すことにした。
俺は死神。六百六十番の死神だ。
普通に仕事をこなして、普通に家に帰る、ごく普通の、一般的な死神だ。
自慢ではないが、友達もまぁまぁいる方だ。
今は仕事中だから、真面目に仕事をして、魂を回収して帰ってきたところだ。
そのタイミングで、我が死神界の問題児と言っても過言ではない死神、三番と神様が密会をしているところに立ち会ってしまった。
僕と同じく、魂を回収して戻ってきた他の死神たちも、神様と三番が密会しているところを気にかけているようだ。
「お、六百六十番じゃん」
「あ、先輩」
声をかけてきたのは、俺の先輩であり、友人の三百番だ。
「何?どうしたの?」
「いや…あそこ…」
俺がそう言って三番と神様の方を指差すと、先輩はゲッという声を出した。
「目合わせるな目合わせるな。三番と神様が密会してるところ見たなんて言ったら、お前タダじゃ済まないぞ!?」
先輩は俺の肩を抱いて、三番と神様がいた方向とは真逆の方向を向かせて背中をグイグイ押してきた。
「いやでも気にならないんですか?死神界の中では力を持ってる二人が密会してるなんて」
「いや気になるけど、気になるけどだよ!?世の中には知らなくていいこともあるんだよ、新人くん」
「いや俺死神になって二百年くらい経つんですけど…」
先輩は焦りすぎて、俺が死神になってまぁまぁの年月経っていることも忘れてしまったようだ。
「なんだ、視線感じるなって思ってこっちにきてみたら、三百番と六百六十番だったんだ」
死神の中ではよく知られた声。
今、先輩と僕の真横で、その声が聞こえてきている。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」
先輩と抱き合ってその場から飛び退いた。
そんな僕たちをみて、三番はとても楽しそうに笑った。
「こらこら三番、後輩たちを驚かさないでくれないかい?死神たちが仕事をやめだしたらどうするんだい」
神様は三番を宥めるように言った。
「そんなの僕は知らないよ。神様、さっきの話だけど、そんな感じでよろしく」
「わかったよ」
神様は穏やかな表情で頷いていた。
一体なんの話をしていたのか、見当もつかないけれど、神様が穏やかな表情をしているということは、いいことだったんだろう。
いつものように険悪ムードにならなくてよかった。
「ってか神様さ。僕の監視だけでもいいから外してくれない?」
三番が突然そんなことを言いはじめた。
監視って、神様が、死神たちが生まれたときにつけた紋章のことを言っているのだろうか。
「嫌だよ、だって私だけ義務から逃れるなんてことできないもん」
「もんとかいうなクソジジイ」
三番は、これ以上神様と話していても無駄だと思ったのか、浮かび上がった。
「ジジイだなんて…ひどいな、私はまだ五千も生きていない若造だよ!!」
神様は三番に向かって叫んだ。
「いやそれでも俺たち死神からしたらジジイであることに変わりはないんじゃ…?」
と小さな声で先輩が。
「先輩それ言ったら神様年齢自覚しちゃうからだめですよ!」
と馬鹿でかい声で六百六十番が。
「ちょっと酷くない!?」
神様が叫んでいる声が、もう遥か遠くへと飛び去っていった三番の元まで届いた。




