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出会い


 三番に任されていた任務は多くあるが、大体の任務は同じような内容のものだ。

 その内容とは、行き場のなくなった魂を回収して冥府へと持っていくという内容だ。

 冥府の中へは立ち入り禁止とされてしまったので、入り口で回収した魂を受け取ってもらい、冥府へと持って言ってもらう、というふうにしてもらった。

 ついでに冥府内へいくことができると思ったのに…その辺りも、神様はちゃんと対策してあるようだ。抜かりないジジイだ。

 そこまでして、僕を冥府の中に入れたくないのだろうか。

 厄介者扱いされて、いい気持ちにはならない。帰ったら一旦半殺しにしよう。

 しかし、ずっと行ったり来たりをしていたからか、そろそろ疲れてきた。どこかに休めるところはないだろうか。

 三番は見下ろすと、ちょうど真下に人気のない公園を見つけたので、そこで少しの間休むことにした。

 人間界に派遣されたのは、確か、太陽が真上に登った時だ。現在は太陽はもう沈んで見えなくなり、真っ暗だ。

 この時間だったら、本当だったら冥府にいて、ゆっくりゲームでもしていたはずなのだが、任務が終わるまで冥府出禁と言われてしまったので、戻ることはできない。

 これは徹夜で運ぶことになりそうだ。

 三番は舌打ちをして、公園のベンチから立ち上がった。

 休んでいる暇があったら、さっさと終わらせて早くちゃんとした家で休みたい。

 三番は飛び上がって、まだ彷徨っている魂の回収へと向かうことにした。

 ビルの隙間を飛びながら通り抜けていく。

 いく方向は気まぐれだ。目的地は決まっているから、あとは適当に飛んでいけばどうとでもなる。もし壁にぶつかってしまっても、空を飛んで乗り越えればいいものだ。

 三番はたまたま見つけた曲がり角を曲がった。

 すると、曲がってすぐのところに待ち構えていたのは、透明な壁だった。

 ぶつかったのは、開けられていた窓だった。


「いった…」

「あらちょっと大丈夫!?」


 女の声が聞こえてきた。

 三番は頭の痛みを堪えつつ、前を見た。

 そこには驚いた表情でこちらを見つめている人間の少女の姿があった。


「…は?」

「は?はどちらかというとこちらのセリフだと思うのだけれど…まぁいいわ。今冷やすものを持って来るから、そこで待っていてちょうだいね」


 桃色のセーラー服に身を包んだ、長い髪をハーフアップで束ねた少女は、僕に釘を刺して、部屋から出ていった。

 どうにも逆らう気にはなれなかったので、窓の淵に座って女を待っていた。

 少し経って、布に何かを包んで、女は戻ってきた。


「これ、保冷剤よ。さっきぶつかったところに当てて使って」


 淡い黄色のタオルに包まれたそれは、触れたところからじわじわと冷たくなっていく。

 僕は、さっきぶつかった場所に当てた。


「全く、こんな時間に外出するなんて危ないじゃないの。暗いから外も見えずらいだろうし。何してたのよ」

「君には関係ないでしょ」


 僕はいつものように、他の死神達が話しかけにきた時と同じようにそっぽ向いて、女を突き放した。

 大抵のやつはこれで僕の目の前から消えていく。

 理由としては多分、こんな態度を取られてムカつくから。あとはこう言ったあとちょっと気まずくなるから。

 この女もそうなるんだろうなと思いながら、反応を待った。

 だが、この女は違った。


「あら、関係あるわよ。あなたが窓にぶつかってきた時点で、私とあなたは関係者になったんだから。それで、なんでこんな時間に外出してるのよ」


 僕の腕を掴んで女自身の方に引き寄せてきた。

 これはもしかして、いうまで話してくれない面倒臭いタイプのやつか…。

 三番はため息をついて、仕方なく話すことにした。


「仕事だよ」

「こんな時間まで?大変なのね」


 女は僕の答えが聞けて満足したのか、窓辺から離れて、床に散らばっていた包帯やらなんやらを救急箱の中にかたずけて、部屋の隅に置いた。


「そういう君は?人間の女。こんな遅くまで起きてるなんて、太っても知らないよ」

「まぁ、心配してくれるなんて優しいのね。でも心配しないで、私はどうやら他の人よりも太りにくい体質のようだから」

「ふぅん」


 三番はまたそっぽ向いた。

 女はまた三番の後ろに戻ってきた。


「私のことよりも、あなたのことが知りたいわ。あなたは何者?こんな時間に空を飛んでいる人間なんて見たことがないわ」

「こんな時間じゃなくても、空を飛んでいる人間なんていないだろ」


 隣に戻ってきた女を軽蔑するような目で見た。女はそんな視線には気が付かず、確かに…と一人で納得していた。


「もしかして、女って相当な馬鹿なの?」

「そのセリフは全世界の女性を敵に回すことにならないかしら?」

「違う、君のことを言ってるんだよ、女」

「あら、そうだったのね。でも残念。私は女性だけれど、華っていう名前があるわ」

「そういうことじゃない」


 人間というのはここまで扱いづらいものだっただろうか。

 普段は他人を振り回す存在である僕が、逆に振り回されているような。


「調子狂う…」

「?」

「理解しなくていいから」


 このままずっと、女と話していると、こちらの気が狂ってしまいそうだ。さっさと切り上げよう。


「それで、結局あなたは何者なの?」

「…僕は死神。残業中の死神だよ」


 絶対信じないだろうと思って打ち明けた。


「死神…」


 女は呆然と呟いたあと、キラキラとした目でこちらを見てきた。


「ちょっと何その反応」


 面倒臭いことになるような予感がして、三番はその場から急いで飛び立とうとした。

 だが、女に後ろから抱きつかれて、それは叶わなかった。


「ちょっと…離してくれる?」

「死神って、これから死ぬ人をあの世へ導いてくれるっていう、あの死神でいいのよね!?」


 こちらの話は全く聞こえていないようだ。

 鼻息を荒くして、女はひたすら質問を投げかけてくる。


「うるさい落ち着け黙れ」


 女はハッと何かに気がついて巻きついた手を解いた。


「ごめんなさい。幽霊が見えたのは初めてだから、とても驚いてしまったの」


 女のその言葉を聞いて、三番は空中で静止した。


「ふーん…なるほどね」

「死神様…?」


 三番の右半分しか見えていない口元が歪んだ。


「まぁいいや。僕はいくから」


 三番の体がどんどん女のへやから遠ざかっていく。


「え!?ちょっとそんな急に!?」

「さっきも言ったでしょ、残業中だって」


 それにいいものを見せてもらったからね。

 そう呟いた三番の声は、目の前の女には届かなかったようだ。しかし、それも三番にとっては好都合。


「また明日も来てくれる?」


 女は僕の正体を知ってなお、そう聞いてきた。普通、死神なんかと会いたいとは思わないはずなのに。


「まぁ、気が向いたらね」


 三番はその場を去りながら呟いた。


「わかったわ!待ってるわね」


 見なくてもわかる。さっき、僕が死神だと明かしたときにしていた表情と同じ顔をしている。

 不思議な感覚にイライラしつつも、三番は残業を早く終わらせるために、次の目的地へと飛んでいった。

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