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第2話:五本目の支柱の穢れ

 健司のホンダの車内は、古くなった汗とインスタントコーヒーが混じった化学的な霧に包まれていた。轟音を立てるヒーターの下で燻されながら、彼らは埼玉の朝の碁盤の目のような道を切り裂くように進む。アキラは、後退していく車線表示から目を離さず、健司がハンドルを親指で叩く、メトロノームのような鈍い音に合わせて瞬きを繰り返していた。窓を閉め切っていても、11月の湿った空気が唇に感じられ、その冷たさが昨日の体臭をシートのウレタンに一層深く染み込ませていく。無精ひげを生やし、小刻みに震える健司は、停車するたびにハザードランプを点滅させた。まるで、彼の一挙手一投足を追跡しているであろう監視衛星に、自分たちの存在を必死に伝えようとしているかのようだった。


 環状道路を半分ほど進んだところで、健司が鼻にかかったかすれ声で口を開いた。「普通にしてくれよ、な?」


 アキラは唸るように言った。「『普通』の定義は?」


 健司は道路から目を逸らさなかったが、彼の顎の筋肉がぴくりと動いた。「インタビューも、変な質問もなしだ。ただ行って、挨拶して、贈り物を渡して、帰る。隣人みたいにさ」


 アキラは沈黙を続かせた。こういう事態に脚本などない。崩壊寸前の家族の現場を張り込む二人の成人男性のためのエチケットなど存在しないのだ。彼は膝の上で手を組み、指の関節が白くなるのを見ながら、前方の車線を縫うように走る配達用のスクーターを眺めた。その荷台では、安っぽいプラスチックの弁当箱が揺れていた。


 健司は喉を鳴らし、舌で口蓋をこすった。「フルーツバスケット、持ってくるの忘れてないだろうな?」


 アキラは頷き、足元にあるセロハンで包まれた巨大な物体を靴で軽く突いた。プラスチックに水滴がまとわりついているのが感じられる。一粒の雫が青い網目状の包装を伝い、加速するたびに底に溜まっていく。それを拭い去りたい衝動を、彼は抑えた。


 次の交差点が迫ってくる。コンクリートの高架下で、若者の非行と市の落書き消去作業の両方を約束するのに十分な量のグラフィティが描かれている。分岐点で、健司のハンドルを握る手が白くなった。この辺りの家は新しく、どの玄関灯も郵便受けも完璧に一直線に並んだ、いわゆる建売住宅地だ。そしてどの家も、それぞれ違うスケジュールで、同じように予測可能な悲劇を内包している。バックミラーに、アキラ自身の姿が映る。疲れた目と、平静を装う様子まで同じ、青白く、やつれた自分の写し身が。


 健司は這うような速さに落とし、顎で指し示した。「あそこだ。角の家」


 その家は袋小路の突き当たりに一軒だけぽつんと建っていた。白すぎるペンキ、まるで頭皮を剥ぎ取られたような長方形の土の庭。ドアの上には太い注連縄が飾られ、その藁は曇り空を背景にまだ金色に輝いていた。その祝祭的な結び目は場違いだった。工場で完璧に作られた郵便受けや、標準仕様の防犯カメラの中では、時代錯誤に見える。家はネットで見たときよりも小さかったが、遠くからでも、アキラはそこに何か密度のようなものを感じた。まるでその影の中で空気が濃くなるかのようだ。


 健司は車を路肩に寄せ、エンジンを切った。エンジンがカチカチと音を立てて冷えていく間、二人は身動きもせずに座っていた。


 最初に沈黙を破ったのはアキラだった。「こんなこと、しなくてもいい。ただ…」


 健司が平坦な声で遮った。「手伝うって言っただろ」


 アキラは身をかがめ、額をダッシュボードにこすりつけ、鼻から無理やり息を吐き出した。彼はフルーツバスケットを掴み、両手で抱え込んだ。包装の冷たさと、中の柑橘類の鈍い重みを感じる。気づいたときにはもう車外に出ていた。鋭い空気が首筋の汗を奪い、耳を冷気で真っ赤に染めた。


 玄関まで二十歩。彼は一歩一歩、外科手術のような正確さで泥に足跡を刻みつけながら数えた。背後で聞こえる健司の足音は不規則で、速まったり、遅くなったりと、アキラの神経を逆なでするシンコペーションを刻んでいた。私道に車はなく、家の中に明かりはついていない。しかし、ドアの上の注連縄は、露で輝くほど新しかった。


 彼は最後の一歩でためらい、健司が追いつくのを待った。二人は並んで、触れ合わずに立てるだけの幅しかない玄関ポーチの入り口で佇んだ。健司の手が呼び鈴を探し当てた。木目調のサイディングに埋め込まれた、丸く光るボタンだ。彼がそれを押した。


 家の中から聞こえたチャイムの音は、安らぎを嘲笑うかのようだった。二つの上昇音に続き、震えるようなビブラートが響き、そして消えていった。すぐには何の音もしない。アキラの肌が粟立ち、後頭部の付け根のかゆみを掻きむしりたかったが、無理やり手を静止させた。彼らは待った。


 すりガラスの向こうで何かが動く気配がし、影が現れた。ドアが1センチも開かないうちに、外よりも冷たい空気が漏れ出てきた。それは、切り花を長く水に浸しておいたような、植物的で甘い香りをかすかに含んでいた。


 ドアがさらに大きく開くと、紺色のカーディガンと履き古した灰色のスウェットパンツ姿の女性が現れた。その表情は、注意深く中立を保っていた。彼女はアキラが予想していたよりも年上で、おそらく四十代半ば、黒髪を後頭部でまとめ、ドア枠に体を預けるその仕草にも疲労がにじみ出ていた。


 最初に口を開いたのは健司だった。「朝早くにすみません。我々は、その、ご近所の者です。一応」彼は、自分たちの身元が色あせたナンバープレートにでも書かれているかのように、駐車した車の方を指差した。


 女性は浅くお辞儀をした。「ああ。佐藤芳子と申します。はじめまして」彼女の声はしゃがれていた。何日も眠っていないか、あるいは全く眠っていなかったかのようだった。


 アキラは、あまりに強引にフルーツバスケットを突き出した。「これ、持ってきました。ご近所へようこそ」


 彼女の視線はバスケットからアキラの顔へ、そしてまたバスケットへと移った。彼女は両手で贈り物を受け取り、プラスチックがカサカサと音を立てた。「ありがとうございます。こんなこと、なさらなくてもよかったのに」


 健司は、笑おうとしたが喉に詰まったような音を出した。「伝統ですから。どこかで読みました」


 長すぎる沈黙があった。芳子は背後をちらりと見てから、中に入るように促した。「外は寒いですから。どうぞ、少しお入りください」


 アキラと健司は視線を交わした。任務は配達であって、侵入ではなかったはずだ。しかし、そこには言葉にされない期待が漂っていた。


 中に入ると、明かりは薄暗く、すべての窓がシャッターかカーテンで閉ざされていた。玄関は整頓されているが殺風景で、下駄箱には二足の靴しかなかった。安い女性用のローファーと、擦り切れた十代の若者向けのスニーカーだ。靴紐は解かれ、ベロはだらしなく広がっていた。アキラは自分の靴を脱ぎ、機械的な正確さで並べた。健司もそれに倣ったが、危うくスニーカーを倒しそうになった。


 彼らは芳子について、短く狭い廊下を進んだ。壁紙は淡い色で、ざらざらした質感があり、指紋や汚れ一つついていない。しかし、ここの空気はより重く、アキラがすぐには判別できない匂いで飽和していた。樹脂のような甘い匂いだが、腐敗臭が混じっている。


 彼女は彼らをメインの部屋へと案内した。中央にはこたつが鎮座し、その格子柄の掛け布団はきちんと整えられ、端には湯呑が一つだけ置かれていた。残りの家具はリサイクルショップで揃えたような最小限のもので、壁際には折りたたまれた布団、テレビのない繊維板のテレビ台には、安物のデジタル時計と未開封の郵便物の束だけがあった。


 アキラは気まずげに立ち、生活の痕跡を探して部屋を見回した。しかし、それらは一切なかった。家族写真も、通学カバンも、健司が話していた息子の存在を示すものは、廊下のスニーカーと、昨夜健司のアパートで嗅いだのと同じ、微かな無機質な匂い以外にはなかった。


 芳子はフルーツバスケットをこたつに置き、床を指差した。「どうぞ、お座りください。お茶を淹れます」


 彼女が台所へ消え、薄暗い部屋にアキラと健司だけが残された。アキラは初めて、部屋の四隅にある四本の支柱に気づいた。それらは家の外壁に合わせて白く塗られていたが、こたつに最も近い柱の根元は、ペンキが不均一で、何か厚いものの上に塗り重ねられたかのようだった。


 健司が身を乗り出し、低い声で言った。「見たか?」


 アキラは、それ以上詳しく話す気にはなれず、頷いた。


 芳子が、三つの不揃いな湯呑とプラスチックの魔法瓶を載せたお盆を持って戻ってきた。彼女は手元を狂わせることなくお茶を注ぎ、視線を合わせずに湯呑を滑らせて前に出した。


「散らかっていてすみません」と彼女は言ったが、部屋はきれいだった。「まだ荷解きが全部終わっていないんです」


 アキラはお茶を一口すすり、舌をやけどした。ティーバッグにお湯を注いだだけのような薄いお茶だったが、湯呑は清潔で、そのもてなしには誠意が感じられた。


 健司が世間話を試みた。「息子さんは、いらっしゃいますか?」


 芳子は体をこわばらせたが、すぐに無理に笑顔を作った。「二階で寝ています。学校はストレスが多いようで」


 また沈黙が訪れた。アキラは口で息をしたが、腐敗を帯びた甘い匂いは今やどこにでも満ちており、健司もそれに気づいているに違いなかった。


 彼は湯呑を、その下の紙コースターを乱さないように注意深く置いた。「我々はもう行かないと」と言って、立ち上がった。


 芳子も立ち上がったが、彼らを見送ろうとはしなかった。代わりに、彼女は両手を組み、今度は先ほどより深くお辞儀をした。「贈り物をありがとうございました。またいらしてください」


 健司は、まるで細部まで記憶に刻みつけるかのように、しばらく彼女を見つめていたが、やがてアキラに続いてドアの方へ向き直った。


 玄関で、アキラは外からの冷気が敷居を通って染み込んでくるのを感じた。それは、室内の濃密で、カビ臭い暖かさとせめぎ合っていた。彼は靴を履き、ポーチに出た。健司はドアフレームに片手をかけたまま、家の中を振り返った。彼の目は大きく見開かれ、充血し、白目は朝の光の中で病的な青色を帯びていた。


 ドアが、柔らかく鈍い音を立てて彼らの背後で閉まった。


 彼らは風がコートを突き抜け、車へと追い立てるまで、黙ってポーチに立っていた。


 アキラが先に乗り込み、ドアを閉め、身震いした。健司はエンジンをかけずに、両手をハンドルに置いたまま座っていた。彼はフロントガラス越しに家を見つめ、唇を動かして何かを無言で練習していた。


 アキラはダッシュボードの時計に目をやり、それから健司を見た。「普通、ねえ?」


 健司は瞬きをした。初めて、彼は心から怯えているように見えた。「思ったよりひどい」


 アキラは何も言わず、ただ家を見つめていた。ドアの上の注連縄が風に揺れていた。


 健司がようやくキーを回すと、ヒーターがリサイクルされた空気を吹き付けた。それは濃く、酸っぱい匂いがした。アキラの指がむずむずした。自分の皮を剥ぎ取りたい、肺の内側からこの家の記憶を掻き出したい衝動に駆られた。


 彼らは車を走らせた。車内は恐怖を密閉したカプセルのようになり、前方の道は果てしない灰色の帯の中へと消えていった。


 ミラーの中では、家は点のように小さくなっていったが、アキラはそれが背後で大きくなり、息をするたびにその間を満たしていくのを感じていた。


 次に彼らが訪れたとき、太陽は低く、風は鋭さを増し、T字路の角の家は、その土台の上でさらに居心地悪そうに見えた。アキラは助手席の窓に映る、眠れず、虚ろになった自分の仮面のような顔を見て、自分はもう健司の事件ファイルの仲間入りを半分果たしているのではないかと思った。


 芳子は同じように用心深くドアを開けた。今度は髪をきつく後ろで束ねており、こめかみの青白い緊張が見て取れた。家の中は以前より寒く、まるでヒーターのプラグを抜き忘れた水槽のようだ。唯一の明かりは、こたつの上に置かれた電池式のランタンから漏れる光だけだった。天井の照明は消されているのか、それとも壊れているのかもしれない。空気はべたつき、湿気が濃く、アキラは挨拶のお辞儀を終える前に、脇の下に汗がにじむのを感じた。


 芳子は微笑んだが、その目はアキラを通り越し、健司に注がれていた。「果物、改めてありがとうございました。アラタはオレンジが一番気に入ったようです」


 アキラは少年の痕跡を探した。携帯電話の充電器か、開いたままの漫画か。しかし部屋は病院の待合室のように殺風景で、家具はすべて、まるで火災訓練で壁際に寄るよう命じられたかのように、端に押しやられていた。四本の支柱が、今日はより際立って見えた。それらは畳から、発育不全の木の幹のように突き出ており、それぞれに色布が固く巻き付けられていた。結び目は高く、ほつれた端がかすかな旗のようになっていた。


 色は、実際に見てみると違っていた。くすんでいて、まるで池の水に浸かったかのようだ。赤は色あせたワインのようで、黄色はほとんど茶色、緑は青ざめた病衣の色だ。青だけが際立っていたが、その布の上部は、ぬるりとした黒い液体で汚れていた。決して塞がらない傷口のようだった。


 健司も気づいていた。彼は布を褒めるふりをして青い柱に近づき、染みの近くを指でなぞった。指先には、カラスの羽のように玉虫色に光る黒い油の粒がついた。アキラは、彼が素早く、こっそりとそれをジーンズで拭うのを見た。


 芳子が座るように促すと、健司は前回と同じ、青い柱の真正面の場所を陣取った。アキラはためらい、それから計算された慎重さで畳に腰を下ろした。これ以上床に接触するリスクは冒したくなかった。


 彼女は再びお茶を出した。今度は縁の欠けた湯呑だった。しかし、お茶は前より美味しく、茶葉の苦味が強く、温度は心地よい一歩手前だった。アキラは一口すすり、適切な世間話を考えようとしたが、健司が割り込んできた。


「新君は元気かい?」彼の声は明るすぎ、音量は社会的に許容される範囲をわずかに超えていた。


 芳子の笑みがひきつった。「あまり元気ではありません。神経質になっているだけです。新しい学校は、思ったより大変なようで」


 音が会話を遮った。家の奥の方でドアが開き、続いて廊下をゆっくりと、不規則な足音が聞こえてきた。玄関に少年が現れた。髪はとかされておらず、目の下は頬の腫れの上でくぼんでいた。彼は袖口が噛み砕かれたオーバーサイズのパーカーを着ており、その視線は野良動物のような怯えをもってアキラと健司から逸らされた。


 芳子は湯呑を置き、立ち上がって彼を招き入れた。「新、この方たちが話していた兄弟よ。果物を持ってきてくださった方たち」


 少年は一度だけ頷き、こたつの端に滑り込んだ。あぐらをかいているが、訪問者からはできるだけ離れている。彼の手はパーカーの折り目に消えた。アキラには、彼が神経質に裏地を引っ張っているせいで、生地がねじれているのが見えた。


 健司は、より柔らかい声で再び試みた。「何かスポーツはしてるのかい、新君?」


 少年は顔を上げずに肩をすくめた。「いいえ」


「じゃあ、ゲームは?廊下にSwitchの充電器が見えたけど」


 今度は、新の目が不安そうに健司の方を向いた。「まだ設定してないんです」と彼は平坦な声で言った。「ここではWi-Fiが繋がらないから」


 その言葉が宙に浮いた。芳子は、か細く、もろい声で笑った。「業者さんが言うには、配線に何か問題があるそうです。でも、すぐに直してくれるって。それまでは、本とボードゲームです」


「本はいいものだ」とアキラは言ったが、すぐに後悔した。


 しばらく誰も話さず、聞こえるのは台所の給湯器がごぼごぼと鳴る音と、新の足が畳を叩く、かすかで不規則な音だけだった。アキラの視線は部屋をさまよった。四本の柱、ますます必死に巻かれているように見える布、青い柱の黒い染み。家の残りの部分は密閉され、ドアは閉まり、窓は厚いカーテンの後ろで施錠されていた。彼はこの家を肺だと想像した。自分たちを吸い込み、奥深くに留め、消化されるか吐き出されるかを見極めているのだと。


 芳子が立ち上がった。「お茶のおかわりを持ってきます」


 彼女が姿を消した瞬間、新が口を開いたが、健司にだけ向けられていた。「あなた、記者でしょ」


 健司は不意を突かれて瞬きをした。「昔はな。今は違う」


「でも、聞きたいことがあるんでしょ」


 アキラは健司の姿勢が変わるのを見た。背筋を伸ばし、視線を前に向け、膝の上で手を緩める。インタビューモードの古い筋肉の記憶が蘇っていた。「君が話したいなら、だけど」


 少年の手は、パーカーの中でさらにきつくねじられた。「みんな、この家は呪われてるって言うんだ」


 アキラは健司が割り込むだろうと予想したが、兄は珍しく辛抱強かった。「君はどう思う?」


 新は首を振った。それは痙攣と見分けがつかないほど小さな動きだった。「腹を空かせているんだと思う」


 アキラは喉の渇きを覚え、唾を飲み込んだ。割り込んで、会話を深淵から逸らさせたかったが、舌が口の中で大きくなりすぎたように感じた。


 健司の声は慎重だった。「何に飢えているんだ?」


 少年は答えなかった。代わりに、彼は突然立ち上がり、失礼しますと言った。彼が去っていくとき、アキラは彼の袖の裾に黒い筋があるのに気づいた。薄暗い中でも油っぽく見える染みだった。


 芳子がティーポットを手に戻ってきた。彼女はそれをこたつに置き、再びお辞儀をした。「すみません。新は最近、自分らしくないんです」


「大丈夫ですよ」と健司は言った。「十代はみんな、少し取り憑かれているものですから」


 彼女は笑ったが、その音は途中で崩れた。彼女はこぼさないように注意深くお茶を注ぎ、そして、沈黙を埋めるかのように言った。「お手洗い、使っていただいて結構ですよ。廊下の突き当たり、二番目のドアを左です」


 アキラはその逃げ道に飛びついた。彼は立ち上がり、お辞儀をして、廊下に出た。


 気温が数度下がった。廊下は以前より狭く感じられ、壁が迫ってくるようだ。床のカーペットは古く、入ってきたときには気づかなかった染みがまだらについていた。頭上の電球は切れており、唯一の明かりは背後のメインの部屋からと、廊下の奥のドアの下から漏れる一筋の光だけだった。


 左側の最初のドアは閉まっていたが、二番目のドアは少し開いていた。アキラはためらい、それからドアをさらに押し開けた。


 中は、空気がさらに悪化していた。沼のようにじっとりとして、腐敗臭がする。そこは物置部屋で、壁際には荷解きされていない段ボール箱が積み上げられ、洗濯かごにはタオルが溢れ、そして中央には、五本目の柱があった。これはむき出しの木材で、古く、ささくれ立っていた。そしてその根元には、リビングの染みと同じ黒い油の水たまりがあった。油は木の節目にある細い亀裂から滲み出し、ゆっくりと粘り気のある糸を引いて畳まで垂れ、そこで水たまりを作って染み込んでいた。


 アキラは胃がひっくり返るのを感じた。後ずさりして、ドアを閉め、何も見なかったことにしたかった。しかし彼は入り口に根が生えたように動けず、半ば差し込む光の中で、黒い液体がほとんど美しく、ほとんど生きているかのようにきらめく様に釘付けになっていた。


 物音が聞こえた。足音だろうか。彼はびくっとした。背後のドアはまだ開いているが、廊下は以前よりずっと長く感じられた。彼は振り返り、一瞬、廊下の突き当たりに何かを見たような気がした。青い色の揺らめきか、あるいは油に反射した光のきらめきか。


 彼は無理やり中に足を踏み入れ、柱のそばにかがみこみ、滲み出る樹脂を調べた。それは油の匂いではなかった。間近で嗅ぐと、香りは花のようで、むせ返るような、まるで葬儀場で腐りかけた百合のような匂いだった。彼は亀裂に沿って指を滑らせた。その物質は温かく、べたつくような抵抗感で肌にまとわりついた。


 芳子が彼の名前を呼ぶのが聞こえた。丁寧だが、有無を言わせない響きだった。アキラは洗濯かごのタオルで手を拭き、立ち上がった。


 彼は最後にもう一度、柱を見た。体を起こしたとき、段ボールの山の一番上に赤い布切れがあるのに気づいた。まるで、将来何かを包むために準備されているかのようだ。その意味するところは明らかだった。家はまだ完成していない。


 リビングに戻ると、健司と芳子が、今や冷めてしまったお茶を前に、頭を下げて静かに話していた。アキラは座り、膝の上に手を置き、爪の下の油の筋を見ないように努めた。


 彼は部屋のハム音に耳を澄ませた。ランタンのファンの回転音、遠くで聞こえる蛇口の滴る音、そして四本の色のついた柱の間で空気が起こす、ほとんど感知できない振動。


 何か言おうとしたが、口に出したいとは思わない言葉しか思い浮かばなかった。


 家はもう、自分たちを数え始めている、と彼は思った。


 アキラは二度とあの家には足を踏み入れないと心に誓ったが、強迫観念とは一種の引力のようなもので、彼の意志は認めたい以上に軽かった。彼はアパートで横になり、眠れぬ夜を過ごした。街の真夜中の静寂を破るのは、通り過ぎる電車の幽霊のようなガタガトいう音と、幻肢のようにまとわりついて家までついてきた、微かで執拗な花の腐敗臭だけだった。


 翌日、彼は健司にテキストメッセージを送った。「眠れたか?」


 健司は即座に返信した。「一睡もしてない。新が午前3時に外にいた。庭に立って、ただ家を見つめてた」


 アキラは返信しなかった。代わりに、彼は一時間かけて爪の下をこすり洗いし、油性の黒い残留物がどうしても落ちないのを見ていた。シャワーを浴びた後でさえ、それはかすかな膜となって、爪の生え際に油っぽい線を残した。彼は自分に言い聞かせようとした。これは何でもない、ただの顔料か、染みか、あるいは配管の不具合か古い家のペンキのせいだと。しかし、そうではなかった。


 夕暮れ時までに、彼は再び健司の車に乗り、袋小路の突き当たりに駐車していた。今度は、彼らは呼び鈴を鳴らさなかった。自分たちで中に入った。本来なら不法侵入と感じるべきだが、むしろ必然のように感じられる一種の侵害だった。


 内部は以前よりも暗かった。こたつの上のランタンは消えており、唯一の明かりは台所の窓がわずかに開けっ放しになっているところから差し込む、ナイフのように細いオレンジ色の光が暗闇を切り裂いているだけだった。空気はさらに濃く、湿気がひどく、アキラのシャツは数秒のうちに背中に張り付いた。


 彼らは廊下を進み、閉ざされたドアを通り過ぎ、静かな玄関を抜け、物置部屋へと向かった。アキラは入り口でためらった。ドアは以前よりも大きく開いていた。


 床板が彼の重みで軋んだ。彼は靴音を立てずに裸足のまま中に入り、柱を見つめた。油は増殖し、ぬるりとした黒い糸は今や、その頂部の亀裂から畳まで、そして所々では畳を横切って這い回る網の目となり、編まれた繊維に黒くべたつく指紋を残していた。中央からは太い雫が垂れ下がり、震えてはいたが決して落ちることはなかった。


 アキラの胸が締め付けられた。息をするたびに花の悪臭が強まり、今や腐敗臭が充満しすぎて目が沁み、喉の奥がひりひりした。


 彼がドアをさらに押すと、その端が枠にこすれ、そして、彼が想像したのか、あるいは記憶していたのか、あの唸り声が戻ってきた。顎の骨を通して感じるほど低い音だった。


 彼はさらに近づいた。黒い油は受動的ではなかった。それは積極的に膨らみ、表面張力が歪んでいた。まるで木の中に脈動があるかのようだ。台所から漏れる光の筋にきらめき、その色は紫から青へ、そして緑へと変化した。その艶は、何もかもがおかしい、おかしい、おかしい。


 彼は手を伸ばし、震える手で柱のすぐ上に浮かべた。熱は想像ではなく、本物だった。木は空気よりも暖かく、油は熱っぽいエネルギーを放っていた。彼は最後の瞬間に手を引いた。再び接触する気にはなれなかった。


 廊下で動きがあった。足音か、引きずるような音か。健司が彼の後ろにいて、その視線は染みに釘付けになっていた。彼の瞳孔は大きく開き、白目は赤く充血していたが、声は落ち着いていた。


「フルーツバスケットのことで呼ばれてる」と彼は言った。「メインの部屋に戻ってくれって」


 アキラは答えなかった。彼には柱しか見えず、それ以外のことは考えられなかった。唸り声は大きくなり、背筋を這い上がってきた。


 健司が身を乗り出した。「始まった」と彼は囁いた。


 アキラが振り返ると、一瞬、物置部屋が回転し、壁の角が柔らかくなったように感じた。健司の顔が近すぎ、汗でぬらぬらと光り、その表情の端にはパニックの兆候が見えた。


 アキラは体勢を立て直し、合理性の支点を見つけようとした。「これはただのトリックだ」と彼は言った。「木の中の何か、菌類か、何か…」


 健司が彼を遮った。「違う。聞け」


 彼は耳を澄ませた。最初は、自分の脈拍、耳の奥で鳴る速く浅い鼓動しか聞こえなかった。しかし、その下に、空ろなノック音が聞こえた。柔らかいが、執拗な音で、まるで誰かが柱の内側から叩いているかのようだった。


 二人とも凍りついた。


 ノックは続いた。三回叩き、一休みし、さらに三回。まるで暗号のようなリズムだった。


 アキラの肌が粟立ち、彼は健司の手首を掴んで部屋から引きずり出した。廊下は今やさらに冷え、空気は液体のように濃密だった。彼らは玄関まで後退し、靴も履かずに玄関のドアを背後で乱暴に閉めた。


 外の風は激しかったが、空気は澄んでいて、夜は鋭く、無臭だった。アキラは腰をかがめ、両手を膝について、その空気をむさぼるように吸い込んだ。健司は硬直して立ち、まるで家が通りを追いかけてくるのを警戒しているかのように、家を睨みつけていた。


 彼らは車に乗り込み、ドアをロックした。


 長い間、どちらも口を開かなかった。


 やがて健司が言った。「家を見張らないと。誰かが」


 アキラは目を閉じた。柱の残像が網膜に焼き付いている。黒い油、きらめき、そしてあの音。


 彼は家の中にいる家族のことを思った。少年と、その母親。そして増え続ける柱と染み、家が待ち構え、見つめ、獲物に印をつける様を。


 彼は反論しようと口を開いたが、代わりにただこう言った。「わかった」


 彼らは車を走らせた。ヘッドライトが家をバックミラーの闇に溶かしていく。


 しかし、アキラは腹の底でわかっていた。本当の物語はまだ始まってもいない、と。

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