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眾禍祓除 SHU-KA-FUTSU-JO  作者: タカノ
第一章
16/42

第十六話『癲恐禍霊』

 入隊試験から数日後の放課後、天平たちは禍対の任務へ行くため校門で迎えを待っていた。


「今日は送迎してくれるんだ?」


「今日はというか、任務では基本的に送迎があるわ。この間は貴方がまだ正式に入隊していなかったから」


「ああ、なるほど」


 話していると、黒塗りのセダンが天平たちの前に停まる。

 純礼が助手席に乗り込み、続いて天平と夏鳴太が後部座席に乗り込む。


「始めまして。拝揖院総務部で現場補助員を務めている涌井と申します」


 運転席から若い女性が振り向き、天平と夏鳴太にそう挨拶する。


「現場補助員は、事件の調査や隊員の送迎、事後処理などを行ってくれる方々よ」


「私は第二部隊の補助に当たることが多いので、今後ともよろしくお願いします」


「よろしくお願いします」


「よろしく頼んます」


 挨拶をかわし、早速任務の話に。


「現場は練馬区氷川台の住宅街です。三日前に若い男性二人が飛び出しで車に轢かれ死亡する事故がありました。車を運転していた人物によるとなにかから逃げているようだったと。ドライブレコーダーにも確かにそう見える映像が残っていました」


 涌井の説明を三人は真剣に聞く。


「警察による捜査が行われましたが、時刻が深夜だったこともあり目撃情報がなく難航しています。その後もその付近で同じような事故が二件起きています」


「禍霊に追いかけられたってことですか?」


「まぁ良くある話やな」


「それだけなら大した事件ではないのですが、我々が調査した結果、住宅街の外れにある雑木林に破壊された祠を発見したのです」


「祠?」


「どうやらその中に禍霊が封印されていたようなのです」


「そんなのがあるんですか?」


「珍しい話ではありません」


「拝揖院が今のような活動をし始めたのは、明治時代に入ってから。それ以前は霊能者が各々で祓除なり封印なりを行っていたのよ。だから拝揖院の把握していない禍霊が封印された祠は結構あるわ」


「へえ〜」


「どうやら、その雑木林は付近では心霊スポットのような扱いを受けているらしく。若者の不法侵入が度々あるようです」


「最初に事故で死んだ奴らが入って壊したんやろな。ほんで自由の身になった禍霊にビビらされて逃げよったら轢かれたと。ま、自業自得やな」


「禍霊が見える人たちだったってことだよな?」


「せやな。運の悪い奴らや」


 事件についての話をしながら、車を走らせること約三十分。

 目的地に辿りついた。

 住宅街の中にある雑木林だ。


「住宅街の中に、こんな雑木林あるんや」


 車を降りて、竹刀袋で肩をとんとん叩きながら夏鳴太が言う。

 彼の言うように住宅街の中にぽつんと存在するこの雑木林は、明らかに他と雰囲気の違う異質な場所に感じる。


「私有地ですが、入る許可は貰っています」


「権利者の方は祠についてはなにも?」


「はい。先祖代々からの土地らしく、詳しいことはなにも知らないと」


「そうですか」


 涌井の説明を聞いて、純礼は雑木林の中に踏み入る。

 その後を追うように、天平と夏鳴太も入っていく。

 涌井は外で待機だ。


「これね」


 しばらく歩いたところで、純礼が祠を発見する。

 よくあるタイプの小さな祠で、無残に破壊されている。


「派手にやりよったなぁ」


 祠の残骸を竹刀袋で突きながら夏鳴太が言う。

 

「封印されてたってことは、結構強い禍霊なんだよね」


「まぁ、そうでしょうね」


 天平に言葉を返しながら、純礼は周囲を見渡す。

 不意に周囲の気温が下がったような感覚に襲われる。


「っ!」


 純礼が臨戦態勢に入る。

 天平と夏鳴太もそれに倣う。

 少しして、奥の方から人型の禍霊が歩いて来た。

 その容貌を一言で言えば、手足のある二足歩行の鯰。

 全身の肌が岩のようにごつごつとしており、琥珀色の着物を身に纏っている。

 それを見た純礼はすかさず禍仕分手を発動。

 雑木林が夕焼けに染まる。


「探す手間省けたやん。さっさと祓って帰ろや」


 夏鳴太は刀袋から刀を取り出し、抜刀。


「"霳霞霹靂"!」


 刀身から激しい電撃が発生し、それを禍霊に向けて放つ。


「…………」


 禍霊は右足を僅かに上げ、そして下ろす。

 地面を踏むと、土がまるで壁のようにせり上がり電撃を阻む。


「やるやんけ禍霊!」


 夏鳴太はさらなる攻撃を放とうと構える。

 だが次の瞬間、


「禍霊ではない……」


 禍霊がゆっくりと口を開いた。

 攻撃を放とうとしていた夏鳴太も、臨戦態勢で待機している天平と純礼も動きを止める。


「私にも、お前たちと同じ名前がある」


「なぁ、これって……」


 冷や汗を流しながら、天平が口を開く。


「私の名は"悍埆(かんかく)"」


「"臈闌花"!」


 禍霊が名乗るのと同時に、純礼が憑霊術を発動。

 大量の花びらの刃を悍埆と名乗る禍霊に飛ばす。


「癲恐禍霊よ!」


 その後で、天平と夏鳴太に大声で叫ぶ。


「やっぱり!」


「マジかい!」


「涌井さんに連……」


 三人の動きがぴたりと止まる。

 花びらの刃を容易く防いだ悍埆から尋常ではないプレッシャーが放たれている。

 三人とも冷や汗を流し、意識しなければ呼吸もできない。


「なんだこれ……」


 動悸が早くなり、手足が震える。

 天平は自分の身体に起きた異変に困惑していた。


「癲恐禍霊は禍霊が限界まで人間の恐怖を食ろうて進化したもんや。その溜め込んだ恐怖をああやって放つねん」


「車に轢かれた男性たちは、なにかから逃げていたんじゃなくて、恐怖で錯乱していたんだわ」


 夏鳴太と純礼も同じように、悍埆の放つ恐怖に当てられ震えている。

 三人はこの程度で済んでいるが、常人ならば錯乱し前後不覚になるだろう。


「うおっ!?」


 夏鳴太に悍埆が迫る。

 岩のような腕で殴りかかる。

 夏鳴太はなんとか身体を動かし回避、そのまま斬りかかるが、足が震え踏み込みが甘く威力が弱い。


「くそっ!」


「涌井さんに連絡したわ! 救援が来るまで持ち堪えましょう!」


 純礼が大声で言う。

 彼女は一旦、現世に戻りスマホで雑木林の外で待機している涌井に癲恐禍霊と遭遇したことを伝えたようだ。


「持ち堪える? 祓ったるわ!」


 夏鳴太はそう言って、凄まじい電撃を発生させる。

 それを見た悍埆は距離を取るが、


「"明星"!」


 飛来した球体に激突された。

 癲恐禍霊に完全に怯んでいた天平だが、戦う覚悟を決めたようだ。


「"明星・射光"」


 レーザービームを放つ。

 悍埆は素早い動きで回避し、天平に迫る。

 しかしそこに、凄まじい電撃が迫る。

 電撃は悍埆を呑み込み、木々を薙ぎ倒す。

 

「ん?」


 土煙が晴れると、そこには土で出来た球体が浮遊している。

 それが崩れると、中から無傷の悍埆が出てきた。

 夏鳴太は舌打ちし、身体を雷に変えて突撃。

 悍埆は土で槍を生成し夏鳴太に飛ばすが、彼の身体をバチバチと音を鳴らしながらすり抜けてしまう。


「なに?」


 それを見て怪訝な表情を浮かべる悍埆に、夏鳴太が迫る。

 再び悍埆が攻撃を放つが、雷と化した夏鳴太には通じない。

 そのまま距離を詰めてきた夏鳴太に、袈裟斬りを浴びる。


「ぬぅ!」


 バックステップで距離を取る悍埆。

 そこに今度は純礼が迫る。


「ちぃ!」


 悍埆は掌から土塊を放出し迎撃。


「"臈闌花・刳為咲"」


 純礼は花びらのドリルで容易く土塊を貫き、尚も悍埆に迫る。

 悍埆は回避しようとするが、五つの球体に取り囲まれる。


「邪魔だ!」


 それを振り払おうとする悍埆。

 すると球体の一つが天平と入れ替わる。

 いきなり現れた天平を見て驚く悍埆の顔を、天平は思いっきり蹴り抜く。


「ぐおっ!?」


 顔を蹴られよろめく禍霊の胸部を、純礼が花びらのドリルで貫く。


「があああああっ!」


 純礼はドリルで貫いたまま、悍埆を持ち上げ放り投げる。

 上空に投げ出された悍埆に、電撃が直撃。


「ぎゃああああああああっ!」


 絶叫する悍埆。 

 三人は連携し、悍埆に着実にダメージを与えていく。

 しかし、


「人間どもがぁっ!」


「うわっ!」


「きゃあっ!」


 突如、地面が爆発したかのように炸裂し天平たちは打ち上げられた。

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