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眾禍祓除 SHU-KA-FUTSU-JO  作者: タカノ
第一章
14/42

第十四話『憑霊術の極致』

 天平と夏鳴太はほぼ同時に意識を取り戻す。

 二人の意識が記憶の世界へ飛んでいたのは時間にしてほんの数秒程度。

 意識を失う前と状況はほとんど変わっていない。

 

「なんやったんや今の!」


 夏鳴太は刀を構え、天平は球体との位置交換で禍霊から距離をとる。

 禍霊の放ったあの煙は、吸い込んだ者にトラウマを思い出させて錯乱させるという効果がある。

 しかし天平と夏鳴太が揃ってトラウマとなっている記憶そのものを喪失していた為、本来の効果が発揮されなかった。

 あまりにも早く意識を取り戻し、錯乱した様子もない二人を見て、禍霊は面食らっているようだが、そこに夏鳴太から電撃が飛ぶ。


「フゥゥゥ!」


 再び大量の煙を吐き出し、分身体を作り出す。


「またこれかい!」


 夏鳴太は一旦後退し、距離を取る。


「天平! 俺がデカいの撃って決めたるから時間稼いでくれ! おい! 聞いとるんか!?」


「え? あ、ああ!」


 心ここにあらずといった感じでぼーっとしていた天平は慌てて行動に映る。

 夏鳴太と入れ替わるようにして前に出て、手を銃の形に構える。


「"明星・射光"」


 煙の分身体にレーザービームを放つ。

 分身体は硬化しているため、先ほどまでのようにレーザービームが拡散して消えるようなことはなく、対象を撃ち抜く。

 撃ち抜かれた分身体は形を崩し煙散し消える。

 同じように他の分身体も撃ち抜いていくが、それを上回るスピードで新たな分身体が生みだされていく。


「手数が足りないな……」


 そう言いながら、天平は夏鳴太の様子を見る。

 彼は剣術でいう上段の構えをしたまま微動だにしない。

 握られている刀には電撃が纏わりついており、それはどんどん増幅している。


──まだかかりそうだな……。あれやってみるか。


 それを見た天平は今のままでは必要な時間を稼げないと判断。

 レーザービームを放つのをやめ、次の一手を講じる。


「"明星・遍照(へんじょう)"」


 天平が人差し指で空を指し示す。

 すると球体が上空に昇り、凄まじい輝きを放つ。

 放射された光は大量の分身体に降り注ぎ、その身体を溶かしてゆく。

 球体から放たれる光は、球体と同じ四百六十度という高熱を持っている。

 天平が新たに編み出した広範囲攻撃用の抖擻発動だ。


「ヴヴッ……!」


 光は禍霊にも及び、高熱によるダメージで分身体を作り出すスピードが格段に低下する。


「よっしゃいくで! 避けや天平!」


 そこに夏鳴太から合図が飛ぶ。

 天平は抖擻発動を止め、上空にあった球体をさらに上昇させ、それと位置を交換する。

 次の瞬間、夏鳴太が刃を振り下ろす。


「はああああああああああっ!!!」


 強烈な稲光と凄まじい轟音。

 夏鳴太による一撃は地面に大きなクレーターを作り、禍霊を分身体たちごと消し飛ばした。


「凄い威力だな」


 地面に降り立った天平が感心したように呟く。


「まぁ全力の半分くらいやな」


「本当かよ」


 完全に倒した気になり軽口を叩き合う二人。

 しかし、クレーターの中心部分に煙が収束する。


「ん?」


 最初に気づいたのは天平。

 彼の視線の先には、煙が骸骨の形に収束していく光景がある。


「嘘やん。あれで祓えてへんのかい」


 夏鳴太も気づき、呆れたような口調で言う。


「フゥゥゥ……!」


 復活を遂げた禍霊。

 しかし先ほどまでと違い、身体が不定形に揺らめいている。


「いいかげん消えろや」


 夏鳴太が電撃を放つ。

 禍霊は避ける素振りすらなく直撃。

 あっけなく煙散するが、たちまち収束し元に戻る。


「なんや?」


 再び電撃を放つ夏鳴太。

 同じように直撃するが、これまた同じように煙散したのちに収束する。


「おい、あれってお前の能力と同じなんじゃないか?」


「同じってなにがや」


「だから、身体そのものが煙になってて攻撃が無効化されるんじゃないか?」


 天平の言葉に、顔をしかめる夏鳴太。


「やったらどうすねん」


「打つ手なしだろ」


 顔を見合わせる天平と夏鳴太。

 そこに禍霊が攻撃を放つ。

 煙で出来た巨大な拳。

 天平は回避、夏鳴太は迎撃を行おうとする。

 しかし、それらより早く、


「"翳月"」


 漆黒の靄が、煙の拳を呑み込むように消し去った。

 

「ここまでだな」


 ビルから飛び降りてきた喬示が、着地するやいなや二人に言う。


「ここまでって、不合格ってことですか?」


「いや合格だ。じゅうぶん禍対でやってける力があるのは確認できた」


「でも祓えてませんよ」


「ありゃお前らにはまだ無理だ。ちょっと見誤ったな。だいぶ上のクラスだわ、あの禍霊」


「隊長クラスじゃなきゃ無理ですよ。あれ」


 花びらを絨毯のようにして降下してきた純礼が言う。

 

「俺からすれば禍霊なんて全部雑魚だからなぁ〜。完全に見誤ったわ〜」


「そういうのいいですから。はやく片付けてください」


「へいへい。そういうわけだから、試験は終わりだ。ちょっと下がってろ」


 純礼の冷たいツッコミを受けた喬示は、そう言いながら天平たちの前に出る。


「フゥゥゥ……!」


 攻撃を防がれた禍霊は、煙を無数の槍に収束させ一斉に喬示に放つ。

 喬示はそれに対して身動き一つしない。

 槍が喬示に迫るが、彼の身体に纏わりつく靄に触れた先から消え去っていく。


「悪いが。攻撃を無効化できるのはお前だけじゃあない」


「フゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」


 まるで噴火のように、禍霊から上空に向けて大量の煙が噴き上がる。

 その煙は剣や槍のような形をとり、鋒を喬示に向ける。


「面倒くせえし、ぱぱっと終わらせるか」


 それを見た喬示は焦る素振りもなくそう言って、天平に振り向く。


「天平。憑霊術には二段階目がある」


「二段階目……ですか?」


「そうだ。寄処禍として禍対で戦っていくなら、お前もいずれはこの領域に辿りつけるようにならなきゃならねえ。それを今から見せてやる」


 喬示はそう言うと、右手で刀印(とういん)を組み、顔の前にかざす。

 そして呟いた。

 憑霊術の極致。

 その力の名を。


 「"掛祀(かけし)禍終(かつい)"──"宵闇(よいやみ)夜霞(よがすみ)翳月(かげつき)"」


 夜が来た。

 黒洞々たる夜が。

 常に夕暮れで固定されている間世の空が漆黒の闇に覆われていく。


「ウッ……ウウウッ……!」


 禍霊が怯えるような様子を見せる。

 禍霊が見ているのは、喬示の背後に現れた巨大な仏像。

 血走った眼をした三匹の鵞鳥(がちょう)

 その鵞鳥たちの背に台座が乗り、さらにその上に結跏趺座(けっかふざ)で座した仏像。

 その背には月の意匠が施された円形の光背(こうはい)

 光背の中心部にある黄金の月以外のすべてが漆黒に染まっている。

 もう一つ特筆すべきは、仏像の顔の部分。

 顔がなく、どこまでも続くような穴があいている。

 

「なんだ……これ……」


 怯えているのは天平も同じだった。

 禍々しい漆黒の仏像を眺め、冷や汗を流す。


掛祀(かけし)禍終(かつい)。憑霊術の二段階目にして極致。寄処禍としての力を極めた者が手にできる力よ」


 純礼が天平に言う。

 彼女は何度か見たことがあり、落ち着いたものだ。


「御霊信仰と云うものがある。怨霊を鎮め、神として崇め奉ることで災いではなく恩恵を得るって信仰だ。掛祀禍終はそれに着想を得て編み出された。ようは自分に憑いてる禍霊を一時的に神に格上げすることで強化するわけだ」


「これ神様なんですか?」


亜神(あじん)、あるいは擬神(まがかみ)。まぁ好きに呼べ」


「ウウウウウウウッ!?」


 天平と喬示の会話の最中、翳月の光背にある黄金の月が他の部分と同じような漆黒に染まっていく。

 黄金の部分を僅かばかり残し、弓張月のように。

 その現象と時を同じく、禍霊の身体と、上空にある無数の煙の剣や槍が夜の闇に溶けるように消えていく。

 喬示の憑霊、翳月の能力は黒い霞に触れたものを問答無用に消し去るというもの。

 掛祀禍終ではその能力が強化され、霞が触れずとも発動時に展開される夜の中にいるものすべてを自由自在に消し去ることができるようになる。

 身体が煙だろうがなんだろうが関係なく、すべてを闇に葬り去る。

 

「すっげ……」


「えっぐいわ」


 自分たちを打つ手なしの状況に追い込んだ禍霊を文字通り瞬殺した喬示の力に天平と夏鳴太は呆然とする。

 当の喬示はなんの感慨もなく、掛祀禍終を解除し、天平たちに振り返る。


「よし。帰るか」



            ☆



 試験を終え事務所に戻る一同。

 現在はソファに座り、一息ついているところだ。


「なんか釈然とせんわぁ」


 夏鳴太がソファに沈み込みながら言う。

 禍霊を祓除しきれなかったことが悔しいようだ。


「あれはまだ貴方に祓えるレベルじゃないわ。私にも無理」


「せやかて純礼」


 諭す純礼と、それでも納得のいかない様子の夏鳴太。

 一方、純礼の隣に座る天平は視線を床に落としたまま黙っている。


「天平お前、さっきから一言も喋らんと、どないしたん」


「え? あぁ、いや。疲れただけだよ」


 天平は禍霊によって見せられた記憶について考えていた。

 自分の父親が寄処禍である可能性を言うべきだろうか。

 しかし、確証もないうちに言うのは憚られる。

 そんなふうに悶々としている。


──もし寄処禍なら、禍対の仕事を続けていれば会うことがあるかもな……。


 そう結論を出し、禍対の仕事により真剣に向き合う決意をした。

 それから天平と夏鳴太は書類の記入など禍対入隊の為の手続きをして、正式に入隊を果たした。

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