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眾禍祓除 SHU-KA-FUTSU-JO  作者: タカノ
第一章
12/42

第十二話『紫煙の禍霊』

 新宿・歌舞伎町。

 多くの飲食店や風俗店、パチンコ店などが立ち並ぶ日本最大の歓楽街。

 人通りも多く、ホストクラブやガールズバーなどのキャッチが声をかけている。

 そんな猥雑な街の雑居ビルの階段を天平たちは上がっていた。

 

「こんな場所にあるんだね」


「あまり来ることはないけどね」


 五階建て雑居ビルの最上階フロア。

 ここに禍霊対策局第二部隊の事務所はある。

 殺風景な空間に、無機質なドアと屋上へ続くのであろう螺旋階段。

 純礼を先頭に、扉を開けて事務所に入る。

 入ってすぐの場所は応接スペースのようで、テーブルとそれを挟んで二つのソファがある。

 そのソファに喬示が座っていた。


「おお、来たか」


 喬示はそう言って、テーブルに置いていたコーヒーに口をつける。


「お久しぶりです、高嶺隊長」


「おう夏鳴太。もう大丈夫なのか」


「全快ですわ」


「そりゃなにより。天平のほうも上手くやってるみたいだな」


「なんとか」


 天平と夏鳴太の二人と軽く会話をかわした喬示は、コーヒーを飲み干して立ち上がる。


「んじゃ。試験といくか。大したもんじゃねえから気楽にやれ」


 喬示はそう言って、天平と純礼の間をすり抜けて扉から出る。


「ついてきな」


 その言葉に従い、天平たちは事務所から出る。

 螺旋階段を登り、屋上へ出る。

 特になんのことはない普通の屋上。

 ここでなにをするのかと天平がきょろきょろしていると、喬示が禍仕分手を発動。

 四人は間世へ移動。

 間世の屋上には、現世の方には存在しなかったものがあった。


「なんだ?」


 そこにあったのは球体。

 ちょうどこの屋上にもある貯水タンクと同じくらいのサイズの漆黒の球体だ。

 それがわずかに浮いた状態で佇んでいる。


「禍隊の入隊試験は禍霊の祓除だ。その為の禍霊は隊長が捕まえてこなきゃならねえ。今回は二人がかりだから、丁度いいの探すのに苦労したぜ」


 喬示は言って、漆黒の球体に右手をかざす。


「天平と夏鳴太は前に出ろ。んじゃ、スタートだ」


 その言葉と同時に、球体が消滅。

 中から現れたのは、煙をくゆらせる骸骨。

 

「フゥゥゥ……」


 禍霊はポキポキと関節を鳴らしながら、天平と夏鳴太に向かって歩いてくる。

 気が立っているのか、既に二人を敵として認識しているようだ。

 そこから一瞬で距離を詰め、天平と夏鳴太を脇に抱えるように掴み、屋上から飛び立つ。


「このっ……! 明星!」


「霳霞霹靂!」


 二人は同時にそれぞれの能力を発動。

 天平は球体と位置を交換して抜け出し、夏鳴太は天平が脱出したタイミングを見計らい、刀身から強烈な電撃を放つ。

 それにより禍霊は夏鳴太を投げ飛ばすようにして離す。

 二人と一体は通りに降り立ち、睨み合う。


「フゥゥゥゥゥ……!」


 禍霊の口から大量の白煙が溢れ出す。

 それは巨大な拳の形に収束し天平に殴りかかる。


「煙を操る能力ね」


 天平は球体との位置交換で攻撃をかわし、禍霊に接近。

 そのままインファイトに持ち込み、パンチやキックを放つが煙に防がれる。

 

「ヤニアット!」


「うおっ!」


 そこに禍霊が煙で出来た腕でラリアットを放つ。

 天平は腕を交差させ、ガード。

 ダメージこそないが吹き飛ばされる。


「なにがヤニアットやねん! しょうもない!」


 吹き飛んだ天平と入れ替わるように夏鳴太が禍霊に迫る。

 電撃の迸る刀で斬りかかるも、禍霊は白煙の腕で防ぐ。

 腕は斬れるが、白煙に戻って漂うだけだ。


「"明星・射光"」


 レーザービームを放つ天平。

 禍霊の頭部を正確に狙い撃ったそれはしかし、先ほどの夏鳴太の攻撃で周囲に漂っている煙の中に入った途端、かき消えた。

 煙は微粒子でありそれに光が当たると散乱現象を起こす。

 それよってレーザービームが拡散してしまったのだ。


「あいつ、もう抖擻発動習得してんのか」


 屋上で戦いを見守っている喬示が、驚いたように言う。


「教えたその日には習得していましたよ」


「へえ。やっぱ有望だな。まぁ、今回のは相性が悪いみてえだが」


 喬示の視線の先では、天平がレーザービームを連発している。

 しかし、先ほどと同じように煙の中で拡散してしまい、禍霊には届かない。


「くそっ! マジかよ!」


 レーザービームが通じないのを悟った天平は構えを解き、禍霊からの反撃を回避する。

 

「悪い夏鳴太、俺あんま役に立てないかも。チンダル現象……じゃないミー散乱で攻撃が届かない」


「なんやねんチンダル現象て! 下ネタ言うてる場合ちゃうで!」


「下ネタじゃねえよ!」


「ヤニアット!」


「うわあっ!」


 球体との位置交換で夏鳴太の隣に移動した天平。

 夏鳴太と話している隙に接近した禍霊にラリアットで吹き飛ばされる。


「だからしょうもないねんそれぇ!」


「マールボロッ!」


「ただ銘柄言うとるだけやんけ!」


 禍霊の攻撃をさばき、刀で斬りかかる。

 そこに光り輝く五つの球体が飛来。

 

「ウッ!」


 禍霊に直撃し、よろめかせる。


「どらぁっ!」


 その隙を逃さず、夏鳴太が電撃を放つ。


「ヴォオオオッ!」


 禍霊は絶叫しながら、無数の白煙の腕を生成し、夏鳴太を殴り飛ばす。

 追撃を仕掛けようとするが、球体との位置交換で背後を取った天平が強烈な蹴りを浴びる。


「ヴウッ! マールボロッ!」


 禍霊は夏鳴太への追撃をやめ、天平に狙いを変更する。


「マールボロアイスブラスト!」


「ちっ!」


「マールボロダブルバースト!」


「おっと!」


「マールボロトロピカルスプラッシュ!」


「よっ!」


「マールボロクリアハイブリット!」


「ほっ!」


「Marlboro Black Menthol!」


「うわぁ! いきなりネイティブになるな!」


 球体との位置交換を駆使して禍霊の連続攻撃をかわし続けていた天平だが、禍霊が急に流暢な英語を発したことに驚き、回避が遅れて殴り飛ばされてしまった。


「なにやってんねん!」


 戻って来た夏鳴太が飛び上がって斬りかかる。

 禍霊はそれを防ぐと、今までとは比較にならない量の煙を放出する。

 そしてその煙は、禍霊と同じ骸骨の姿に収束し、硬化する。


「なんや分身か? さっきのやつと似たようなことすな」


 荻窪駅で遭遇した禍霊を思い出しつつ、刀で斬り払う夏鳴太。

 一体一体は大した戦闘力もなく脆いが、いかんせん数が多い。

 反対方向では天平も分身と戦っているが、倒したそばから新たな分身が増えていっている。


「しゃあない」


 夏鳴太は自身の身体を雷に変える。

 

「雷殴れるもんなら殴ってみい」


 分身たちの攻撃は、雷そのものとなった天平には通じない。

 防御の必要がなくなった天平は荒れ狂う雷となって分身たちを蹂躙する。

 しかし禍霊も負けじと、煙を放出し続け分身を作り出す。


「ほんま多すぎやろ!」


 倒しても倒しても湧いてくる分身に悪態をつきながら、少しずつ距離を詰めていく。

 すると、禍霊は分身を作るのをやめる。


「なんや降参か?」


 それを見た天平と夏鳴太はとどめを刺すべく一気に禍霊に迫る。

 だが次の瞬間、


「ヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニ!」


「うおっ!?」


 分身が破壊されたことで充満していた煙がタバコの形に収束した。

 天平と夏鳴太はそれを容易く振り払うが、


「ん!?」


 今までの煙とは明らかに違う臭いが漂う。


「タバコの煙やな」


「うっ! ゲホッゲホッ!」


 周囲に漂う煙を大量に吸い込んでしまう天平。

 さらに遅れて、雷化の解けた夏鳴太も吸い込む。


「しもた! うえっふ!」


「ヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニ!」


 さらに大量のタバコが発生。

 発生したそばから煙散してゆく。

 煙から逃れようとする天平と夏鳴太だが、明らかに動きが悪い。

 煙草の葉に含まれるニコチンやノルニコチンといったアルカロイドは副交感神経の興奮に作用する毒薬だ。

 かつては農薬としても利用されており、人間にも有害。

 頭痛や動悸、手足のしびれなどの症状を引き起こす。

 さらに二人が吸い込んだのは自然物としての煙草の葉に含まれるものではなく、禍霊が霊力によって生み出したもの。

 毒性は格段に高く、本来は起こることのない症状を引き起こす。

 そしてそれは、既に起きていた。


「なんだ……視界が……」


 最初に天平が。

 そこから少し遅れて夏鳴太も。

 最初に動きが完全に止まり、次に視界がぼやけ、最後には意識が闇へと滑り落ちて行った。

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