3 お題【お父さん】 『バッカじゃないの』
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「もうパパはほんっとに過保護でぇ、ハタチになっても門限が夕方の6時なんですよ」
「ええっ!! そらウザいなあ。えっ、ほんまに?」
「本当ですよ! いや、だって、まだハタチなんですよ? 何かあったらどうするんですか!」
「そやけど6時はないやろ。部活帰りの中学生だってもうちょい遅いんちゃう?」
「いやいや! こんな可愛い娘に何かあったらどうするんですか!」
……バッカじゃないの?
くだらないバラエティー番組に、ため息を吐く。
大御所俳優と、その一人娘。
二世タレントってだけで大して可愛くもないのに……
と毒づいていたら、芸人がそれと同じことを上手にツッコみ、スタジオにどっと笑いが起こる。
ふふっ、だよね。
バカ親もいいとこだよね。
少しスッキリした気持ちで、テレビを消した。
「うちのお父さん、ほんとに過保護でさ。せっかく免許取ったのに、なかなか運転させてくれないの。こないだなんか、近所のドラッグストアまで行くだけなのに、助手席に乗り込んで来たんだよ」
「心配なんじゃない? 女の子だし」
「心配しすぎだって! 運転にもいちいち口出してくるしウザいよ! あーあ、高速に乗って、自由に遠出してみたいなあ」
……バッカじゃないの?
空いた席を狙う人達でごった返す学食。
ランチそっちのけで愚痴る友人を無視し、黙々とフォークを口に運ぶ。
父親が稼いだ金で免許を取らせてもらって、車も貸してもらって、運転だって教えてもらって。
感謝されるどころかウザがられるなんて。
こんな娘でも、父親にとっては可愛いのかな。
「ちょっと聞いてよ! うちの父親、土日ずっとリビングから動かないんだけど。そこ通らないとキッチンに行けないし、水も飲めないし。マジ無理」
「うえっ」
「きったないパジャマでゴロゴロしてるし……加齢臭? なんか臭いし。邪魔だからどっか行けっての」
……バッカじゃないの?
夕日が射す満員電車。
すぐ後ろから聞こえる女子高生達の会話に、思わず舌打ちしそうになる。
家族の為にあくせく働いて、休みの日にただ休んでいるだけで、何でこんな風に言われなきゃならないんだろう。
横に立っているおっさんより、このコ達の方がよっぽど化粧臭いのに。
……父親って、哀れだなあ。
ゴーッという爆音と共に、地下に入った電車。
黒い鏡に映る自分の顔を見て、ふと思う。
もし、道端でお父さんにバッタリ会ったら。
お互い父娘だって、すぐに気付くのかな。
私の顔は、お父さんによく似ているみたいだから。
────バッカじゃないの。
一生会うこともないのに。
私に会いたくない人に、会うことなんて出来ないのに。
私はお母さんがいればいい。
それでいい。
……それでいいんだ。