表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/10

2 お題【夢見がち】 『夢の延長』

5/15 投稿

 

 降り注ぐスポットライト。

 ずっと端っこだった私も、こうして明るく照らしてくれる。

 揺れ踊るペンライト。

 自分のメンカラばかりを探していたあの頃とは違い、今はどの色も宝石みたいに輝いて見える。


 私達の最後を飾るステージは、もちろんこのイントロから始まる。

 一番ヒットした曲。メディアにもバンバン取り上げられ、紅白にも出た全盛期の代表曲。

 客席と一体化する、この感覚が楽しいよね。


 盛り上がる定番曲を幾つか経て、中盤ではソロ曲へと移っていく。

 メンバー五人のトリを飾るのは、メンバー人気ランキング万年最下位の私のソロ曲。ビジュは一番微妙だけど、懸命に磨いた歌唱力が評価され、今では私のシャウトに緑の光がわあっと沸き立つまでになった。


 再び定番曲へと戻り、ラストを飾るのは……

 人気メンバーのココミが脱退したことにより、暗黒期に陥った時の曲。

 すっごくいい曲なのに、全然売れないのが悔しくて。全盛期の半分以下の、小さなライブハウスの楽屋で、みんなで抱き合いながら泣いたっけ。

 もう一度ドームやアリーナに立って、この曲を一人でも多くの人に届けたいねって。

 また光の海を見たいねって。


『夢見がちな朝は~鏡に魔法をかけて~♪』


 声が震える私達の代わりに、ファンのみんながサビを歌ってくれる。


 ダメだよ。せっかく夢が叶ったんだから。

 ちゃんと歌わないと。

 ちゃんと『ありがとう』を届けないと。


 ダンスの振りに合わせて涙をさりげなく拭うと、握り締めたマイクに、私のアイドル人生を全部注ぎ込む。

 電気信号を通して、会場中に響き渡るCメロの高音。

 今、この瞬間。私は間違いなく、夢にまで見たセンターだ。



 ありがとう、ファンのみんな。

 ありがとう、ココミ、コロン、モモルン、アジュ、ゲンラ。

 ありがとう、私の……




 ~♪♪♪



「はい」

「お時間終了10分前ですが、ご延長はどうされますか?」

「いえ、もう普通の女の子へ戻ります」

「は?」

「いえ……やっぱり30分延長で」



 夢のようなアンコールに全力で応えると、画面のライブ映像に手を振り、4時間半のアイドル人生に幕を下ろした。

 ソファーにドカッと座り、ぬるくなったチューハイを一気に飲み干す。

 ええと、缶は燃えないゴミ、割り箸は燃えるゴミ、ポテチの袋は……どっちだ?

 あ、膀胱も限界。トイレ間に合うかな。


 最後にマイクとリモコンを初期位置へ戻すと、酒焼けした声でそっと呟いた。



「普通の主婦へ戻ります」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
どっかで聞いたようなメンバー名だ!? というか、カラオケボックスでごっこ遊びかい! しかも普通の主婦、って既婚者だった!?
『東京』の夢を叶えたその後のお話かもしれない、なんて思いました。 普通の主婦だって夢をみたいものね( *´艸)笑
まだ追っかけ中だけど(*´ω`*) >ありがとう、ココミ、コロン、モモルン、アジュ、ゲンラ。 …ん? あれ? え? …そっ閉じ(笑) 皆様の瞬発力スゴイ。豆読んでるだけですら瞬発力全然ないです(´Д⊂…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ