2 お題【夢見がち】 『夢の延長』
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降り注ぐスポットライト。
ずっと端っこだった私も、こうして明るく照らしてくれる。
揺れ踊るペンライト。
自分のメンカラばかりを探していたあの頃とは違い、今はどの色も宝石みたいに輝いて見える。
私達の最後を飾るステージは、もちろんこのイントロから始まる。
一番ヒットした曲。メディアにもバンバン取り上げられ、紅白にも出た全盛期の代表曲。
客席と一体化する、この感覚が楽しいよね。
盛り上がる定番曲を幾つか経て、中盤ではソロ曲へと移っていく。
メンバー五人のトリを飾るのは、メンバー人気ランキング万年最下位の私のソロ曲。ビジュは一番微妙だけど、懸命に磨いた歌唱力が評価され、今では私のシャウトに緑の光がわあっと沸き立つまでになった。
再び定番曲へと戻り、ラストを飾るのは……
人気メンバーのココミが脱退したことにより、暗黒期に陥った時の曲。
すっごくいい曲なのに、全然売れないのが悔しくて。全盛期の半分以下の、小さなライブハウスの楽屋で、みんなで抱き合いながら泣いたっけ。
もう一度ドームやアリーナに立って、この曲を一人でも多くの人に届けたいねって。
また光の海を見たいねって。
『夢見がちな朝は~鏡に魔法をかけて~♪』
声が震える私達の代わりに、ファンのみんながサビを歌ってくれる。
ダメだよ。せっかく夢が叶ったんだから。
ちゃんと歌わないと。
ちゃんと『ありがとう』を届けないと。
ダンスの振りに合わせて涙をさりげなく拭うと、握り締めたマイクに、私のアイドル人生を全部注ぎ込む。
電気信号を通して、会場中に響き渡るCメロの高音。
今、この瞬間。私は間違いなく、夢にまで見たセンターだ。
ありがとう、ファンのみんな。
ありがとう、ココミ、コロン、モモルン、アジュ、ゲンラ。
ありがとう、私の……
~♪♪♪
「はい」
「お時間終了10分前ですが、ご延長はどうされますか?」
「いえ、もう普通の女の子へ戻ります」
「は?」
「いえ……やっぱり30分延長で」
夢のようなアンコールに全力で応えると、画面のライブ映像に手を振り、4時間半のアイドル人生に幕を下ろした。
ソファーにドカッと座り、ぬるくなったチューハイを一気に飲み干す。
ええと、缶は燃えないゴミ、割り箸は燃えるゴミ、ポテチの袋は……どっちだ?
あ、膀胱も限界。トイレ間に合うかな。
最後にマイクとリモコンを初期位置へ戻すと、酒焼けした声でそっと呟いた。
「普通の主婦へ戻ります」