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断罪のシレネ〜神を否定した人間の物語〜  作者: 蒼月ケン


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2/5

episode2 断罪の拳

※注意※

本編には過激な暴力描写が含まれます。

苦手な方は閲覧をお控えいただくか、ブラウザバックを推奨します。

また、本作はフィクションであり、暴力行為を助長する意図はありません。

作中の行為を現実で真似することは絶対におやめください

 汚れた修道服を脱ぎ捨て、井戸水を頭から被った。

アザや傷が氷のような冷たい水に染みる度に涙が溢れた。

…痛い。けれど今の私には心地良かった。

傷が染みる度に、あいつらへの憎しみが積もり続けるからだ。

「待っててね…もうあなたたちの言いなりにならないから。」

私は髪をかきあげて、あいつらへの復讐心を燃やした。


 井戸水で濡れた修道服を身に纏い、冷え切ったまま自分の部屋に戻った。すると視界にかつて、母からもらったペンダントが目に映った。

身につけているとあいつらに取られそうなので外していた。

…手に取ったペンダントを握り締めると、昔のことを思い出した。

 私を捨てた母だが、最後はペンダントを私につけて抱きしめてくれた。

…そんなつまらない思い出は、いらないはずなのに…!

さらに拳を机に押し付けていると、母の顔が思い浮かんだ。

…本当にいいのだろうか。復讐とはいえ人を殴るのは、シスターとして、人間として間違っている。


 憎しみと理性の間で考え込んでいると、朝の鐘が鳴った。どうやらもう祈祷の時間のようだ。早く教会に行かなければ…。

部屋を出て教会に足を運んでいると、さらに考えが巡った。復讐して何が変わる、意味はあるのか。そんな考えに振り回されていた。


 祈祷を終わらせ、ペンダントを見つめながら歩いた。

私は何を考えていたのだろう…。

今まであいつらに復讐しようと企んでいたけど、復讐なんてしても何も生まれないし、シスターとしてしてはいけないことだ。もちろん人としてもだ。

それに被害は私だけ。私だけ受けていればそれでいい…。

私が我慢すればいいんだ…。


 そう思い復讐心を無かったことにしようと胸に秘めようとした時だった。

「うっ…ごめんなさ…ひっ…!」

考え事をしていて誰かとぶつかってしまった。

前にはあのシスターたちが立っていた。

「うわ、汚な!シレネじゃん!さいあくー」

「あ?何持ってんだよ?金か?」


 恐怖で油断してしまい、手元が緩んでいた。シスターに手に持っていたペンダントを取られてしまった。

「あっ!返してくださ…ぐぁ…!!」

手を伸ばしたが汚物を扱うかのように脚を蹴られた。

「へぇ、孤児のくせにいいの持ってんじゃん。」

「…でもこれ安っぽくね?」

「わかるーメッキとか剥がれてるし、軽いよなー。」


シスターたちが好き勝手に触り出して気持ち悪くなった。

「返して…!それは母の形見なんです!」

「へぇ…」


シスターは嫌な笑みを浮かべるとペンダントを地面に落とした。

「あっ…!」


慌ててペンダントを拾った瞬間だった。

ドガッ!!


「ぎゃあ゙あ゙ああああぁ!!? 痛いっ!!離して!!」


鈍い衝撃と共に、焼けるような激痛が手の甲に走った。シスターが革靴の硬いヒールで、私の手ごとペンダントを踏みつけたのだ。


「あはははは!いい気味ね!ほら!もっと鳴きなさいよ!」


彼女は足をどけるどころか、さらに体重をかけてグリグリと踵を捻り始めた。ミシミシと骨が軋み、地面と靴に挟まれた皮膚が悲鳴を上げる。

「やめ……っ!壊れちゃうぅ!!ペンダントがぁ…!!」

私の懇願は、彼女たちの愉悦を煽るだけの燃料にしかならなかった。

「あははは! 壊れちゃえ壊れちゃえー!!」

 パキンッ。


 喧騒の中で、小さく、けれど私の耳には雷のように大きく、何かが砕ける乾いた音が響いた。

足の裏の感触でそれを察したのだろう。シスターは満足げにシレネの手の中を確認するように足を上げた。

「あーあ。壊れちゃった」


 …ペンダントが…母の唯一の愛が…理性が…壊されてしまった。

………奥の中に仕舞い込んでいたものがドス黒く溢れ出した。

同時に燃えるような激しい手の痛みより、怒りが上回った。


 そうだ。

私が馬鹿だった。馬鹿だったんだ。

簡単に人を陥れる相手に、道徳を求めていたなんて。

「あはは!何も言わなくなったぞ!」

「もう行こーぜ、今日はもういいの見れたし。」

シスターたちは私を無視して行こうとした。


 「……おい待てよクソ野郎ども。」

「…あ?いまなん…」

ドゴォッ!!


渾身の力で握りしめた右の拳を、その無防備な顔面の中心へと叩き込んだ。

「ごふっ……!?」


 殴った瞬間、グシャリと何かが潰れる生々しい感触が拳に残った。

シスターは悲鳴を上げる暇もなく、後ろへ無様に吹き飛んだ。

「あ、が……っ、う……?」


 地面に転がった彼女は、顔の中心を押さえてのたうち回っている。

指の隙間からはドス黒い血が止めどなく溢れ出し、修道服を汚していく。

その目は焦点が合っておらず、痛みへの恐怖からか、それともただの生理現象か、ボロボロと汚い涙を流していた。

他2人のシスターも殴られたあいつの反応と私の行動に相当焦りを見せていた。


 ついに人を殴ってしまった。……けれど何故だろう。罪悪感よりも、後悔よりも、心の奥のつっかえが取れた気がするほど清々しかった。

「………なーんだ、意外と簡単じゃん。復讐。」

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