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断罪のシレネ〜神を否定した人間の物語〜  作者: 蒼月ケン


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episode1 前世と今世の理不尽

「おらっ!泣け喚けよ!」

「みっともないなぁ、顔がぐしゃぐしゃw」

「これだからど田舎の孤児はw」


 私の心を表したかのような日一つも照らさない曇り空。

孤児である私を受け入れてくれた教会は地獄を体現していた。

私のことを格下扱いするシスターは、裏庭に呼んでは残酷外道ないじめを繰り返していた。


(痛い…苦しい…)

(なんで…助けて…)


心の中で訴えるが状況は一向に変わらない。それどころかますます酷くなるばかり。

土砂降りで濡れた地面に押し付けられ泥に塗れる。口の中で異物を感じて吐き出そうとするが、体に受ける衝撃でそんな暇もない。


 そのとき鈍い音が響いたと思ったら、お腹に鋭い痛みが走った。

「かは…っ!?」


シスターの足が見えた。きっと蹴られたのだろう。

地面に転がり続け、口に鉄の味を感じる。


「今日はこのくらいで勘弁してあげる。感謝しなさい」

「ほら、ありがとうございますはっ!」


金色の髪を引っ張られ、頭が裂けそうになる。

「あ、ありがとうございます…」

「うわ…汚い…これだから孤児は…」


頭を地面に叩きつけられると、やっと解放されるという安堵に、意識が徐々に薄くなっていた。

(あぁ…このまま死ねたら…どんだけ楽だろうな…)


 すると、近い地面に沿った風景が見えていたはずの視界が、とても眩しい光が見え始めた。


一瞬なんだろうと手を伸ばそうとしたが、そのとき見覚えのある記憶が頭に流れ込んだ。


………それは、私が私でない、かつての私の、「篠口 心花(しのぐち ほのか)」の人生だ。


 真夜中の薄暗い部屋で1人、画面を睨んでひたすらキーボードを打っている。こんなのは日常茶飯事で、よく終電過ぎまで残業をしていた。

私には大した能力がなく、このブラック企業で働くことしか出来なかった。

まぶたが重くても終わらせないといけない仕事が山積みで、今ようやく終わった。


 街灯しか照らされてない道を、睡魔に襲われながら歩く。

意識も朦朧として、立つだけでも精一杯だ。

横断歩道を渡れば私のアパートが見える。

寝たい…着いたら玄関でいいから寝たい…。

そう思いながら渡っている。


 しかし、足元が赤く照らされていることに気づいて、


「…あれ?赤信号だ…。まぁ車の通り少ないし…。」


判断力が鈍っていたのだろう、何も気にせず歩いていたら、隣から眩しく光る大きな塊がこっちに向かっていることに気づいた。


あ、トラックだ…。そう思った頃には遅かった。


もう避けれない。相手の運転手は私がいることに気づいていない。


 轢かれる直前、こんなことを思った。

私の人生で1番楽しかったの、学生時代に引きこもってアニメやゲームしてた時だったなぁ。

って、何その思い出。まさか走馬灯が家族でも友達でもなくアニメやゲームなんて、愚かだなぁ。

死が迫っているのにこの冷静さ。それほど体が疲弊してたんだろう。

これ以上生きててもブラック勤めで過労死。結婚願望もないし、今死んで楽になったほうがいっか。

そして私はトラックに轢かれ、この世を去った。


 ……少し長い夢を見てた。

目を覚ますとさっきの裏庭に転がっていた。

シスターたちは去っていて、周りには何も聞こえない無音の世界が広がっていた。

空に浮かぶ黄色い月が、ボロボロになった体と心を癒すように照らしていた。


 …あれは私がシレネになる前、前世の記憶だ。

前世は社会人になってから精神を削がれる労働に明け暮れていて、それが原因で死んでしまった。

最後の記憶がトラックに轢かれたところだから、間違いなく即死だっただろう。

 そして今、記憶を思い出した。神からの祝福なのか、それともただの残酷さを味わせるための遊びなのか。

どっちにしろ絶望を味わったことに変わりはない。

(…私は、不幸にまみれる運命なのかな…。)


 ――――許せない。

体の痛みがさらに怒りを加速させる。

前世は会社にやりたいように搾取され、今世は教会に虐げる?

神は私を嫌っているの?何が気に食わないの?そんなふざけた運命、私がねじ伏せてやる…!

「…絶対に…許さない…!」


 神が決めた人生なんて、私が変えてやる…!

そう誓って泥まみれの手を血が出るほど握りしめた。


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