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ざまぁ担当の男たちが『アホの子』すぎて自滅ばかりするから、何もしてないのに『最凶の悪役令嬢』にされてるんですけど?  作者: フーラー
第2章 チート級の戦闘力を持つけど、婚約破棄されて国を出る男『アホード』

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2-9 婚約破棄をされて国を出奔する愚か者、アホード

「おい、アホード! 貴様、よくも私に恥をかかせたな!」

「え? ……ど、どういうこと?」



試合から数十分後、ベッドで眼を覚ますなり目の前には憤怒の表情で怒鳴り散らすノワールの姿があった。

彼女は普段は女性口調で話すが、怒ると口調が変わる。



「貴様、試合開始と同時に眠りこけるとは……! おおかた、アンジュに飲ませる薬を自分で飲んだのだろう?」

「え、そんなはずはないよ!」



そう、アホードが弁解するのには理由がある。

彼も今まで通常の睡眠魔法を受けたことはあるが、それで見る夢は全て非現実的であり、かつ理解不能なものだった。


一方で今回アホードが夢で見た体験は、夢と呼ぶにはあまりに明瞭で生々しく、そして痛みも感触も全て覚えているほどであった。


彼自身、目が覚めた後に自身に外傷がないのを知って初めて、先ほどまでの戦いが夢だと気づいたくらいだったため、彼は『アンジュから未知の魔法を受けた』と思い込んでいるのである。


もっとも、ノワールにはそんなことは関係ないのだが。



「本来奪うべきファイトマネーも私は奪われたんだぞ! いったいどうしてくれるんだ!」

「ご、ごめんね、ノワール……!」


だが、ノワールの怒りは収まらず、アホードをバシンとひっ叩く。



「これでは、領地の接収は愚か、こちらが国境沿いの土地を手放さなくてはならないではないか! ……しかも、我が家のメンツまで潰して……! 言いたいことは分かるな?」

「え、まさか……」

「ああ。お前とは婚約を破棄する! 今日を限りに、お前は城への入場も許さん!」

「……嘘……」



だが、ノワールの目は本気だった。

とはいえ、自身が『試合開始と同時に気持ちよく眠りこけていた』ということが事実だったとしたら、謝罪で許してもらえる訳がないことは分かっていた。


そのためアホードはうなだれ、呟く。



「分かったよ……。ごめんね、ノワール。……好きだったよ……」

「フン、それではな。もう会うこともないだろう」



そういってノワールは去っていった。






「はあ……」


そうため息をついていると、セドナが果物を持ってやってきた。

とはいえ、明日で退院するということもあり、数個の桃をおやつ代わりに持ってきてくれただけなのだが。



「よう、ノワールから話は聞いたよ。……婚約破棄、残念だったな」

「うん……。まさか、アンジュがあんな技を使ってくるなんてね……」

「ああ、幻術だろ? ……それで、どんな夢を見ていたんだ?」

「あ、そうそう! それなんだけどさ……凄い夢だったんだよ!」



そういうと、アホードはぱあっと顔を明るくし、自分が戦った時の夢の話を行った。


自身の魔法を吸収して反射する魔法や、異大陸で使われることが多い身体強化魔法。

そして『夢の中のアンジュ』の超人的な身のこなしや、セドナ直伝の中国拳法を彷彿とされる独特の攻撃。


そのどれもが、夢とは思えないような最高の思い出だった。



それを熱のこもった口調で話すアホード。



「へえ、意外だな。お前のことだから、勝って終わる夢だと思ったけど……」


全て聞いたセドナは、意外そうな表情で答えた。



「うん。それは僕も驚いたな」

「あと、夢の中の俺はずっとアンジュに『お前を負かしてほしい』って言ってたんだな。現実の俺だったら、両方を応援してたぞ?」

「あはは、言われてみれば確かにそうだよね」



セドナは博愛主義者なので、誰かに一方的に肩入れすることを好まない。

その時点で夢だと気づくべきだったと、アホードは笑いながらセドナにいう。


そのアホードのどこかスッキリしたような表情を見て、セドナは笑いながら果物を剥く。

その手さばきは機械のように正確だった。



「けどさ、アンジュのかけた幻術は……お前の『本当にやりたいこと』を教えてくれたんじゃないのか?」

「……そうだね……」


セドナから貰った桃をシャクッとかじるアホード。

この時代のモモは酸っぱいこともあり、顔を少ししかめながらも答える。



「やっぱり……。本当に強い相手と戦ってみたいな……。それで精一杯やって、それで負けるような戦いなら、それも本望だからね」

「だよな。……だったらさ、異大陸に渡ってみたらどうだ?」

「え?」


セドナは壁に飾られている世界地図を指さしながら答える。



「ここから南西の大陸はさ。この間戦争が終わったばかりだから、本当に強い連中がいるって聞いてるんだ」

「そうなの?」

「ああ。アダンとツマリっていう双子の兄妹なんかは、特に有名だな。単なる2対1じゃない、本当の『二人で一人の連携』を楽しめるって、同族から聞いたことがある」

「へえ……面白そうだね……」



そういいながら、アホードは『双子の剣士』を想像した。




「あなたが有名な」「アホードさんだね」

「さあ、僕らと」「楽しもうよ!」

「私が携えるは炎の剣」「僕の相棒は氷の剣」

「二人で」「一人の」

「絆の」「力」

「「見せてあげる!」」



「うわ、それいいなあ……」


双子の兄妹が鏡うつしのように立ちはだかり、剣を構える姿は美しい。

双子の兄妹が戦う前に『二人で一つの言葉を口にする姿』は素晴らしい。


そのことを思いながら、思わずアホードは高揚するような表情を見せた。



「あと有名なのは、最強の戦士『クレイズ』だな。その剛腕を防げるものはいないって話だ」

「すごいね! そんな人もいるの!?」

「ああ。異大陸には、そんな感じの猛者がゴロゴロいるって話だぞ?」

「いいね、それ! ……僕はもう、守るものも何もなくなっちゃったしな……」


少し寂しそうな表情をするアホードにセドナは笑いかける。


「何言ってんだよ? 守るものならあるだろ?」

「え?」



そして、セドナはアホードの胸をドン、と叩いた。




「お前の剣士としての矜持だよ。まださ、剣士としてやりたいことが一杯あんだろ?」




「……そうだね……ノワールには振られちゃったけど……」

「ちょうどいいじゃんか。へこたれた分だけ、高く跳べよ、な?」


その言葉に、アホードはにこりと笑って剣をギュっと握りしめる。



「よし、じゃあ早速明日から異大陸に渡ることにするよ!」

「ああ、頑張って来いよ!」

「それと……」


アホードは小さな宝石のついた指輪をセドナに手渡す。



「それと……アンジュには僕からって言って、渡しておいて? 素敵な戦いを見せてくれたお礼ってことでさ」

「いいのか? 随分高そうな指輪だけど」

「うん。元々ノワールにあげるつもりだったけど……もういらないだろうからね」

「分かった」



そして、アホードは大きく伸びをする。



「にしても、本当に凄かったな、アンジュは。……僕に気づかれないうちに幻術を見せて、傷一つつけず……いや、指一本触れずに僕を倒すなんて……」

「そうだな……。俺も、あんな魔法があるなんて知らなかったよ」


正直者のセドナは『アンジュが幻術をかけた』という方便を疑っていない。

そしてアホードは、憑き物が落ちたような表情でにっこりと笑うと、



「いつか、ここに帰ってくるよ。その時にはまた試合しようね、セドナ!」

「ああ、勿論だ」



そういってセドナと拳をぶつけ合った。

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