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私は顔が良いだけ  作者: 大木戸 いずみ


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 ……いつの間にか私が先頭を走っている。

 気付けばもう八周目。何人か周回遅れにしている……。その子たちは、周回遅れになった時点で失格になっていた。

 心の中で「ごめん」と呟きながら、走り続けた。もしかしたら、恨まれてしまうかもしれないけれど、全然関係ない。

 私はただ合格を目指して突き進むのみ!

 少し離れた後ろの方から苦しそうな呼吸が聞こえてくる。チラッと後ろを振り向くと、必死に私のことを追いかけている男のたちの姿が目に入った。

 優秀な王宮騎士候補たちを差し置いてる私って……すごくない!?

 ウエスト家からずっと出ていなかったから、自分のレベルがどこか把握していなかったけれど、私ってもしかしてかなり抜き出ているんじゃない?

 自画自賛しながら、私は必死に足を動かした。

 全力で走るのはやっぱりキツイ。私もかなり息が上がっている。けど、フォームだけは乱さないように……。

 ふと、視線を感じた。

 私はチラッとその視線を送った主の方へと目を向く。王子と目が合った。

 ……なんて目で私を見てるのよ。私の生ぬるさを決して許さない厳しい視線を私に送っている。


「手を抜くと、失格だぞ?」

 

 ……は?

 彼の口の動きが間違いなくそうだった。

 私がこんなにも圧倒的な差を見せて走っていることに驚きもなにもないわけ? ……もしかして、私って相当王子に嫌われてる?

 私のこと好きなの? って思ったり、いや絶対私のこと嫌いじゃんって思ったり、感情が忙しいわ!

 たしかに「顔が良いだけ」を売りにして生きてきた私なんてタイプのことは王子は一番嫌いだろうけど……。

 だんだん腹が立ってきた。

 ……分かったわよ。絶対に何も文句を言わせないんだから。

 私は更に残り二周をスピードアップした。この想像よりもかなり広い訓練場での試験を誰よりも早く終わらせてやる。

 走る速度をどんどん上げて、私は更に人を抜いていく。私が抜くと、急に走者は足を止める。舌打ちも聞こえてきた。


「クソッ」

「おい、あいつスピードアップしたぞ」

「嘘だろ。こっから更に上げれるのかよ。一体どこにそれだけ体力があんだよ」

「あの女のせいで俺の今までの努力が……」

「女に負けるぐらいの体力だ。もっと鍛えろってことだろ」

「……男女関係なく、あいつに勝てる奴なんているのかよ」


 だんだん会話の声が遠くなっていく。

 思ったよりも憎悪を感じない会話だった。悪口を言わせないほどのレベルに私がいるってこと?


「どうなってるんだ、今年は」


 その小さな呟きとともに、後ろから足音が近づいて来ているのが分かった。

 このペースでずっと走っていて私と一緒にペースを上げれるなんて……。やっぱり、騎士になるために皆必死に鍛錬を積んできたのだろう。

 残り最後の一周!! 死ぬ気で走るわよ!!

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