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「その時に、この世にはなんて美しい人がいるんだろうって思いました。またいつか会いたいって……。そして、たまたま会場で見つけたので……、声をかけずにいられなかったというか……。すみません、急に」
この気弱そうな男が本当に騎士になれるのかしら……。
私はそんな失礼なことを思いながら「いえ、ありがとう」と微笑む。私が微笑むとモジャは顔を真っ赤にした。耳まで真っ赤だ。
そんな調子だと、仮に一次試験突破したとしても、次の試験に影響が出そうよ。
私が心拍数を上げたから試験に落ちた、なんて言われたらたまったものじゃない。……そんな人いるわけないだろって思うでしょ? それがいたりするものなの。
私のせいで、って言った方が楽なんでしょうね。この世には他責を得意とする人もいるのよ……。
「あの、ルナさんは入団試験を受けるためにここにいるんですよね……?」
「それ以外の理由でここにいたら怖いでしょ」
「あ、はい、それは…………。騎士になりたいですか?」
なに、急に……。この男から一瞬鋭い眼光を感じた。
私は思わず彼をじっと見つめてしまった。「どうして騎士に?」ではなく「騎士になりたいですか?」と聞かれるとは思わなかった。
…………なんなのかしら。この何とも言えない感覚は。
「私は騎士になるのよ」
私はそう答えた。
願望なんかじゃない。もはや使命なのよ。
モジャは「そうですか、ルナさんはかっこいいですね」とへらっと笑う。
「聞きたいことはそれだけ?」
「あ、はい。……あの、がんばってくださいね」
彼はそう言って、去って行った。
なんで上から目線なのかしら……。この空気の中で彼だけが私に話しかけてきた。
あ、そういえば名前を聞くの忘れたわ。……まぁ、もう会うこともないだろうし。
私は再びぼーっとし始めた。




