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王宮に着き、私は一緒に来てくれていたリチャードと別れた。
全力を出し切れよ、なんて熱い言葉を言われて、彼は馬車に乗って帰って行った。
私は深呼吸をして、王宮を眺めた。凄い人だかりだ。門の前で王宮に近付けないように衛兵が立って誘導している。
そりゃそうよね。今日だけが平民も王宮の敷地内に入れるという異例な日。
絶対に事件を起こさまいと王宮の衛兵たちはピリついているだろう。
私は流されるまま、王宮の門をくぐった。それと同時に周囲の視線が私に向いているのが分かった。コソコソと話しているのが、しっかりと私の耳にまで届いている。
「おい、見てみろよ。すっげえ美人がいるぜ」
「待って、あれルナじゃないか?」
「誰だよ、ルナって」
「ほら、最近宿屋の磔殺人事件があっただろう? その生き残り。たった一人彼女だけ生き残ったんだよ。巷ではこの国で一番の美女じゃないかって言われてる」
「ああ! あの噂の……、初めて見た。まぁ、でもこの国一番の美女っていうのは納得できるな。……にしても、あの事件の被害者の子かぁ。なんでまたここに?」
「それは俺にも分からない」
色々なところから私に対しての会話が聞こえてくる。
「あんな令嬢いたか?」
「バカ、あの子は平民だよ。結構有名だぜ? ルナって子」
「見たことないぐらい綺麗な人だ」
「おい、惚れるなよ。俺たち貴族は平民とは違う世界に住んでいるんだ」
貴族からも平民からも噂をされて、悪目立ちしている。最悪だわ。
私は澄ました顔で誰とも目を合わせずに目的地に進んだ。衛兵が途中で「貴族枠はこちら~」とか「平民枠はこちら~」とか言っている。
……やっぱり、試験会場は分けられているわよね。
私は平民枠の方へと足を進める。さっきより少し雰囲気が物騒になった気がする。貴族と平民では色が全く違うのを実感する。
貴族よりも平民の方が女の子の割合は圧倒的に多い。令嬢はわざわざ騎士になる道を選ばないのかもしれないわね。……さっき王宮の前で見かけた女の子はほとんどこっち側にいる。
ちらほらと目に入ってくる女の子たちに声をかける気にはなれなかった。彼女達は私たちを敵視しているようだった。
あんたがなんでこんなところにいるのよ、という目。
「こっちは真剣なのに……」
「私たちを茶化しにきたんじゃない?」
「沢山男いるから、誰か狙いに来たんじゃない? あの美貌だもの、あわよくば貴族のご子息様と~って!」
「絶対そうよ。家族を亡くして、行き場がなくなったから、男を探りにきたんだわ。本当に嫌になっちゃう」
「あの事件のことがあって可哀想だと思っていたけれど、ここで元気な姿見せられたらねぇ~~」
私、なんか滅茶苦茶嫌われてるわね。
完全に孤立してしまった。まぁ、変につるんでいるよりかはよっぽどいいけど。
無視よ、無視。
「そう思いますわよね? ヴァイオレット」
「愚痴っている暇があったら、試験に集中したら?」
その言葉が聞こえた瞬間、私は思わず目線を彼女の方へと向けてしまった。




