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『あら、ごめんなさい、自己紹介が遅れたわ』
私の頭を撫でていた女神はそう言って、私の方をじっと見つめた。
なんて綺麗な瞳なのだろう。気を抜くと吸い込まれそうだ。
透き通ったブルーの瞳に警戒している私が映っている。
『私の名前はシャーロット、芸術の女神よ』
そう言って、彼女は順番に目の前にいる神々を紹介する。
『あっちの目の瞑っているのが戦いの女神イザベラ、斧を持っているのが工芸の神ジャティス、眼鏡をかけているのが知識の神キュディスよ』
「神様って四人だけなの?」
私の言葉にシャーロットはフフフッと笑みをこぼした。
『そんなことないわよ。もっと沢山いる。けど、今ここに集まったのが四人だけ』
「まさか泉の奥に神様に出会える道があったなんて」
『正解だけど、不正解』
私は彼女の言葉に首を傾げる。
『水は神の道へと繋がる媒体ではあるが、来れる人間はほとんどいない。私たちが呼び寄せるか、神の血を流れている者ぐらいだ』
キュディスの発言に私は「なるほど」と相槌を打つ。
私は家族を殺した復讐心が強すぎて神の関心を引き寄せたってこと?
だから、こんな神秘的な場所に連れてこられたのか。
『面白い考えだけど、違うわ』
シャーロットは楽しそうに、そしてどこか愛おしそうに私を見る。
『お前、名は何という』
「ルナ」
キュディスの質問に短く答えた。
『取り柄は?』
「顔」
私がそう言うとキュディスは豪快に笑った。
他の三人も面白そうに私を観察している。
そんなに笑われるような発言したつもりはない。むしろ軽蔑されるような回答をしたのだけど……。
神の世界というのはよく分からない。
『お前は紛れもなくラディの娘だな』
ラディ? 誰?
突然出てきた名前に私は困惑する。
記憶力は良い方だ。一度聞いたことや見たものは忘れない。
それに、「娘」って。私の親は人間だ。
『ラディ、美の女神。多くの神々を魅了した素晴らしい神だった』
過去形。
私は何となく話の内容を察することが出来た。
「私の母が女神だったってこと?」
『ああ。人間の男に恋をしたのが間違いだった』
ジャティスが答える。
彼の残念そうな表情に本当にラディという女神が愛されていたということが分かった。
「私の実の父親?」
『そうだ。最高神に殺された』
「どうして……」
『最高神はラディに恋をしていたんだ。……そして、その後、ラディも男を追って死んだ。多くの者を魅了してきたが、最後まで一途に一人の弱い人間を想い続けていたんだ』
良い話のように聞こえるが、私にとっては少し腑に落ちない。
……私は?
「母にとって、私はどうでも良かったのね」
私の言葉にジャティスは苦笑する。
『この世界で自分の子どもを守っていける自信がなかったのだろう。だから、人間界に落とした。それも必ず我が子を愛してくれると分かっている家族の元へ送ったのだ』
神様も人間同様自分勝手な生き物ね。
実の両親に関しては何も思わない。ただ、生んでくれたことには感謝している。それぐらいだ。
育ててくれた両親に対しての方が愛情は深い。
「……私、神様の娘なのに立派に育たなかったみたい」
『神だからといって立派なわけではない。それにお前はまだ若い。その潜在能力をこれから開花させれば良い』
キュディスはフッと温かい笑みで私の頭を軽くポンポンッと叩く。
イザベラが目を瞑ったまま口を開いた。
「人間離れしたその美しさ。それを磨きなさい。貴女ならその美貌を使いこなせるわ」