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ずっと、ルナからの返答はない。
俺は訓練場で剣の稽古をしながら、苛立っていた。
確かに王家との関わりは内密だが、だからといって、王子に対してずっと無視はないだろう。俺が連絡を送れば、すぐに女は連絡を返すものだと思っていた。まさか、返されないとは思わなかった。……けど、ルナはそういう奴だったな。
俺は何か新しい情報を手に入れると、ルナに手紙を送った。そうして、もう三か月。明日が入団試験だ。
…………本当に一通も送ってこなかったな。
思いっきり俺は剣を振りかざす。その力のあまり、手打ちしていた相手が飛んでいく。
カレンにこっそりとルナの様子を聞き出すために偵察に行ってもらったが、彼女は「本当に手紙を買く間もなさそうでした」と驚いた様子で報告してきた。
彼女曰く、一日中毎日目を疑うような訓練をしていたらしい。あんな訓練を見たことがないし、あれをこなせている人もこの世にルナぐらいしかいないだろう、と。
どれほどの訓練か気になったが、俺が直接様子を見に行くことはできない。それが悔しかった。
「さすがです」
飛ばされた男が俺の元へと戻って来る。王宮騎士の一人だ。
「少し力を入れ過ぎた、悪かった」
「いえ、エドワード様と対決できて光栄でした。ありがとうございます」
男は頭を下げてこの場を去っていく。それと同時に聞き慣れた声が聞こえた。
「もうちょい手加減しないと、死んじまいますよ。俺らは普通の人間なんですから」
こいつはアーサー。
王宮騎士団の副団長だ。中性的で綺麗な顔立ちだが、鍛えられた立派な体格をしている。……細身に見えるが。
女好きのお調子者だが、実力は確かだ。
「俺だって普通の人間だ」
「俺ら王宮騎士をも凌ぐ剣の腕を持っていて何を言ってるんですか」
どうやら俺が魔法を使えるということを指摘したわけではなかったようだ。
普通の人間ではないというのはルナみたいな子のことを言うのだろう。ルナが王宮を出て、デミゴッドについてオーカスが調べてくれた内容で一つ分かったことがある。
神の血を継いでいれば、必ず神の力を使うことができる。……だが、ルナはなんの力もないと言っていた。あれは本当のことだろう。……となると、まだ開花していないだけか?
「ついに明日ですね、入団試験」
「ああ」
「今回は豊作だといいな~~。前回は優秀な奴が少なくて合格者が過去最低だったので」
王宮騎士というのは定員分を取るというわけではない。
補欠合格などは一切ない。試験に落ちれば終わりだ。一次試験は筆記、二次試験は実技、そして、最終試験――面接だ。最終試験まで来ても落ちる者もいる。
きっと、ルナは平民枠で応募してくる。……俺は貴族枠の人間としか関わったことがない。
「実技からは俺も参加する」
「……え、試験受けるんですか?」
俺の言葉にアーサーは目を見開いて、俺を見た。ため息をついて、俺は答える。
「阿呆、審査側だ」




