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『この小娘をどうする?』
『どうするって、美の女神ラディの娘だろう。このまま放っておくわけには……』
『まさか彼女の娘に出会えるとはねぇ』
『ラディが死んでから、この世界は少し寂しくなったなぁ』
『自分勝手でいつも周りを振り回してばかりいた女神だったものね』
『ああ。……でも、良い奴だった。その無邪気さや笑顔に癒されていたものだ』
『彼女の辛い表情なんて見たことないわ』
『……辛い表情か。人間の男を殺された時ぐらいじゃないか。彼女が泣いたのは』
『ああ、いたわね。まさか本気だとは思っていなかったわ。私たち神々が人間に恋するなんて……』
『ラディも馬鹿ね、自ら命を絶つなんて……』
数人の話し声に私はゆっくりと目を開く。
……え、ここはどこ?
私は目を擦りながら、今の状況を必死に確認する。
空の上に浮かんでいる神殿の一部のような場所で私は横たわっていた。
右側を見れば、朝日だし、左側を見れば夕日。前と後ろは夜空……。
「もしかして、死んだ?」
私はハッと目を見開き、その場に立った。
さっきまで泉に溺れていたのに、いきなり雲の上に来てしまった。
『あら、目が覚めたみたいよ』
私の目の前には人間ではない美しさを持った人たちが並んでいた。
貴族のような高貴さはあるのに、貴族なんかでは収まらない神々しさ……。
やっぱり、私死んだ?
『死んでいないわよ』
「え、私、何も言っていない」
『口に出さなくとも考えていることぐらい分かるわよ』
妖艶な笑みを浮かべたずっと目を瞑っている女性をじっと見つめた。
その横に並ぶ人たちも私よりも数倍大きい。……神様か何か?
『ご名答。我々は神だ』
私はその言葉に思わず吹き出しそうになった。
頭に金の輪をはめており、手に斧を持ったその男性は眉をひそめる。
『何がおかしい』
「神様なんて信じてないもの」
『この状況でもか?』
「夢だと割り切っているわ」
『どうしたら信じる?』
「ルイや両親を生き返らせて」
私は威厳のある方々を見つめながらそう答えた。
彼らが神だというのなら、その証拠を見せてほしい。私の大切なものを返して。
『死は抗えないものなのだ』
分かっている。
……いくら神様に頼んでも大切な人はもう戻ってこない。
『そんなにプリプリしないで。可愛い顔が台無しよ』
ストレートの長髪の揺らしながら一人の女性が私の元へと近づいて来る。
どうして彼らは宙に浮いていられるのだろう。
……魔法? というか、何故王子は魔法を使えるんだろう。
一般人の私は何も知らない。あまりにも無知な自分が恥ずかしい。
『あらあら、その小さな頭で一気に色々と考えて大変ね。まず私たちは神だから。そして、王家にいる者たちは魔法を使用できるのよ』
美しい女性が私の頭をゆっくりと撫でる。その温かさに私は母を思い出した。
『無知は悪いことではない。これから知っていけばいい』
眼鏡をかけたモジャモジャ髪の男性が口を開く。手には分厚い本を持っている。
この人たち、本当に一体誰!?
あまりの情報量の多さに頭の中がパニックになっている。