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私は顔が良いだけ  作者: 大木戸 いずみ
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 私はあてもなくただ歩き続けた。

 全身血で汚れていた。裸足のままペタペタと町を徘徊している。

 じろじろと色んな人に見られるが、決して目を合わせなかった。

 人がいるところから離れたい。 

 これ以上私の家族を見世物になんてしたくなかった。

 私はまた吐き気に襲われながらも必死に耐えて、森の方へと進んだ。

 今になって、手のひらに痛みを感じる。釘を取ろうとして両手を切っていた。


「お嬢さん、大丈夫かい」


 声を掛けてくれた老人を無視して歩く。 

 一人になる時間がほしい。私はただ生きる希望を失いながら、家族を殺した相手に憎しみを募らせながら足を進めた。


「おい! ルナ!」


 聞き覚えのある声が聞こえてくる。けど、今は誰とも話したくない。


「待てって」

  

 肩を掴まれたのと同時に私は歩く足を止めた。


「何?」


 彼の方を見る。

 私のことを好いてくれていた大工さんの息子リチャード。

 背が高く、ガタイの良い体。短髪でキリッとした顔立ち、その男らしさに彼は男女ともに人気者だ。


「何って、お前、大丈夫かよ。いや、大丈夫なわけないよな、とりあえず」

「今は一人にして」

 

 私は彼の親切心を一蹴した。

 気遣うことができるほど今は心に余裕がない。

 リチャードを無視して、私はまた歩き続けた。彼は追いかけてこない。

 ただ、どんな表情で彼が私を見ていたのかは容易に想像できた。

 ……ごめんね、リチャード。


 森の中へと入り、暫く足を進めた。

 このまま彷徨い続けて、餓死してもいい。それぐらいの気持ちだった。

 ただ、家族が殺されたままなのは納得がいかない。絶対に犯人を見つけ出してやる。

 この森は昔ルイとこっそり遊びに来ていた。

 私とルイが見つけた秘密の場所へと向かう。

 未だにルイがこの世からいなくなったことが信じられない。

 ……あれは本当にルイだったの?

 顔が潰され過ぎていて誰か分からなかった……。

 そんなことを考えているうちに、秘密の場所へとたどり着いた。森に入り、十分ぐらい歩くと泉がある。

 そこで私たちはいつも遊んでいた。


「懐かしい」


 久しぶりに来たこの場所は昔と変わらなかった。

 私は泉にダイブした。このまま沈みたかった。奥底に沈んで、誰にも知られずに消えたい。

 泉はかなり深い。幼い頃、ルイと一緒に泉に飛び込んで二人で溺れかけた。

 ……あの時、必死になってルイを助けたなぁ。

 今回は、助けることが出来なかった。大切な弟を守ることができなかった。

 なんて弱い人間なのだろう。私は顔が良いだけ。

 王子が言った通り、私は薄っぺらい人間だ。それでいいと思っていた。

 顔が全てな世の中に対して不平不満を唱えたこともない。

 …………これからも私は自分の顔に頼って生きていくの?

 大切なものを失ったのに……。しかも、これが初めてじゃない。

 それなのに、また顔のせいにして生きていくの?

 息が苦しくなってくる。

 そうだ、水の中って息が出来ないんだ。

 私はゴボゴボッと息を吐きながら、必死に足掻く。

 ただ、水面へと上がる体力はなかった。死にたいけど、今は死ねない。

 家族を殺した犯人に制裁を与えなければならない。今の無価値な私に出来ることはそれぐらいだから……。

 胸が苦しい。

 水中の中で必死にもがきながら、私の意識は途絶えた。

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