6
私はあてもなくただ歩き続けた。
全身血で汚れていた。裸足のままペタペタと町を徘徊している。
じろじろと色んな人に見られるが、決して目を合わせなかった。
人がいるところから離れたい。
これ以上私の家族を見世物になんてしたくなかった。
私はまた吐き気に襲われながらも必死に耐えて、森の方へと進んだ。
今になって、手のひらに痛みを感じる。釘を取ろうとして両手を切っていた。
「お嬢さん、大丈夫かい」
声を掛けてくれた老人を無視して歩く。
一人になる時間がほしい。私はただ生きる希望を失いながら、家族を殺した相手に憎しみを募らせながら足を進めた。
「おい! ルナ!」
聞き覚えのある声が聞こえてくる。けど、今は誰とも話したくない。
「待てって」
肩を掴まれたのと同時に私は歩く足を止めた。
「何?」
彼の方を見る。
私のことを好いてくれていた大工さんの息子リチャード。
背が高く、ガタイの良い体。短髪でキリッとした顔立ち、その男らしさに彼は男女ともに人気者だ。
「何って、お前、大丈夫かよ。いや、大丈夫なわけないよな、とりあえず」
「今は一人にして」
私は彼の親切心を一蹴した。
気遣うことができるほど今は心に余裕がない。
リチャードを無視して、私はまた歩き続けた。彼は追いかけてこない。
ただ、どんな表情で彼が私を見ていたのかは容易に想像できた。
……ごめんね、リチャード。
森の中へと入り、暫く足を進めた。
このまま彷徨い続けて、餓死してもいい。それぐらいの気持ちだった。
ただ、家族が殺されたままなのは納得がいかない。絶対に犯人を見つけ出してやる。
この森は昔ルイとこっそり遊びに来ていた。
私とルイが見つけた秘密の場所へと向かう。
未だにルイがこの世からいなくなったことが信じられない。
……あれは本当にルイだったの?
顔が潰され過ぎていて誰か分からなかった……。
そんなことを考えているうちに、秘密の場所へとたどり着いた。森に入り、十分ぐらい歩くと泉がある。
そこで私たちはいつも遊んでいた。
「懐かしい」
久しぶりに来たこの場所は昔と変わらなかった。
私は泉にダイブした。このまま沈みたかった。奥底に沈んで、誰にも知られずに消えたい。
泉はかなり深い。幼い頃、ルイと一緒に泉に飛び込んで二人で溺れかけた。
……あの時、必死になってルイを助けたなぁ。
今回は、助けることが出来なかった。大切な弟を守ることができなかった。
なんて弱い人間なのだろう。私は顔が良いだけ。
王子が言った通り、私は薄っぺらい人間だ。それでいいと思っていた。
顔が全てな世の中に対して不平不満を唱えたこともない。
…………これからも私は自分の顔に頼って生きていくの?
大切なものを失ったのに……。しかも、これが初めてじゃない。
それなのに、また顔のせいにして生きていくの?
息が苦しくなってくる。
そうだ、水の中って息が出来ないんだ。
私はゴボゴボッと息を吐きながら、必死に足掻く。
ただ、水面へと上がる体力はなかった。死にたいけど、今は死ねない。
家族を殺した犯人に制裁を与えなければならない。今の無価値な私に出来ることはそれぐらいだから……。
胸が苦しい。
水中の中で必死にもがきながら、私の意識は途絶えた。