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彼は一呼吸置いた後に、話を続けた。
「鍛錬を続けられること、そして、自分のものにしていること。それが才だ」
誰だってできる。そう思ったけれど、できる者は皆そういう、ということを私は知っている。
天才かどうかはどうでもいい。ただ、私はエドに認めてもらったような気がして少し嬉しかった。私は照れくさくなって、わざとらしく咳をした。
「あの、私の今後については…………ルイを弟を探しに行きます」
ルイが本当に生きているのかどうかこの目で確かめなければならない。クイーンが誰だってかまわない。私は地獄にだって行く覚悟はある。
仮面の男は両親については何も言わなかった。両親が生きているかどうかは分からない。
「そういうと思った。もう調査を進めている。少し時間はかかるだろうが、必ずお前の弟を見つけ出そう」
「……ありがとうございます」
私はその場に深く頭を下げた。心からの感謝だった。
エドは私が平民であろうと、神の血が流れていようと関係なく、私に力を貸してくれた。私もエドの力になりたい。
誰かのためになりたい、と本気で思ったのは初めてかもしれない。
私は顔を上げて、エドと目を合わせる。真っ赤な瞳に私が映る。
今の私だとむしろエドの足を引っ張ってしまう。私は彼の足元にも及ばない存在だ。それが酷く悔しい。
私ばっかりがしてもらってばっかりなのは嫌だ。
「私の今後について、補足していいですか?」
「……ああ」
私は立ち上がり、エドの元へと近づいた。そして、騎士のように彼の前で跪いた。その様子に王子が驚いているのが空気で伝わった。
はしたないが、誰にも文句を言わせない風格を漂わせ、口を開いた。
「今はまだなんの力もない私ですが、いつかは殿下の役に立ちたいです」
権力も富も名声も何もない。
何もないからこそ、手に入れてみせる。私はエドに自分は役に立つと証明したい。王宮にいては甘えてしまう。
エドといる空間は不思議と落ち着く。この安心感に浸っていては私は成長しない。
「ゼロから這い上がってみせます。そして、自分の実力で貴方のお傍にいれるようになります」
王子の隣にふさわしいのは私、と言ったのを実現してみせる。
ちゃんと世間にも私の存在を納得してもらえるようになる。顔が良いだけ、なんて言わせない。ごちゃごちゃ言ってくる野次馬を実力でねじ伏せてみせる。
私の力強い視線に王子は目を丸くして、固まっている。
「なので、私は王宮を離れます」




