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「それはそうだな」
「分かればよろしいのです」
「……俺に臆せずにものを言ってくる女はお前ぐらいだ」
褒められては…………いないだろうけど、私は気にせずにケーキを頬張った。
「聞きたいことがやまほどあると言っても、二つほどだ。あの男は最後に言った内容とお前は今後どうしたいか、だ。……ああ、あとは、なぜハイヒールであの大きな窓ガラスが割れると分かったんだ?」
…………それだけ?
私は驚きとともに、ゴクッとケーキを飲み込んでしまった。
もっと他に私に聞かなければならないことってあるはずでしょ? ……自分で言うのもなんだけど。
「聞いてほしいのか?」
エドは私の考えていることを見透かすように真っ直ぐ私を見る。
「あ、いや、そういうわけでは……」
「平民だろうが、神だろうが、関係ない。ただ、俺にとっては一人の女だ」
今、神って言ったよね?
私は彼の発した言葉に目を見開いてしまう。
どうして分かったのかと聞こうと思ったが、彼は王族だ。調査すれば、すぐにそれらしき文献はでてくるのかもしれない。
ただ、正体がバレるにはあまりも早すぎる。……よっぽど優秀な部下がいるのだろう。
「ご存知だったのですね」
「……本当に神の血が流れてるんだな?」
「はい。ただ、私にはなんの力も使えません」
「そうか。ルナの口から真実を聞けて良かった。……厄介なことにはなったが」
「もしかして、神の血が流れていたりしたら処刑にされるとかですか?」
普通の人間ではないということは国にとっては煩わしい存在になるに違いない。……いや、でも神の血が流れるものを流石にそんな酷い扱いはしない?
私の質問に、王子は露骨に顔を顰めた。
「そんなことするわけないだろ」
「……じゃあ、何が厄介なんですか?」
「神の血が流れている者に出会ったことはないが……、もし存在するとするならば国で保護しなければならない」
「保護……ですか」
王宮で過ごすことになった以上、保護されているようなものだ。
「危険が及ぶかもしれない、と言う理由だ。絶大な力を持っている人間を野放しにはできない。王国に逆らう反乱軍などのリーダーになられては困るからな」
「私、この国を支配したいとかそういう欲は一切ありませんよ?」
「分かっている。だが、お前はそうでも、他の者がどう思うかは別だ」
「……ってことは、私って要注意人物?」
「いや、危険人物だな」
「わわわ」
馬鹿みたいな反応をしてしまった。
正直なところ、まさか自分が自国にとっての危険人物になるなんて思いもしなかった。そりゃ、こんな間抜けなリアクションになる。時間がないのだから。
まだ今の状況を上手く呑み込めていない。
…………この短期間で色々なことが私に起こりすぎている。まさに物語の主人公だ。
いや、私が自ら物語の主人公になりにいっているんだわ。
どんな境遇にだって乗り越える強さと意地があるんだもの。負けなければいい。




