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そういえば、私、王子様に向かってため口を使ってしまった。いや、そんなことよりもあの窓ガラスを……。
え、あれって私が弁償? ……まぁ、そうなるよね。だって、故意に割ったもんね。
「手の痛みは?」
「エド様のおかげでもう全然痛くないです。……あの、窓ガラスって」
私はおそるおそるエドの方を見た。
遺産壊しのルナ、なんて異名がついたりして、死刑台に立つなんてことないよね?
「あれは侵入者が悪い」
「……絶対に侵入者を捕まえます。罪を償わせます」
私は強い口調でそう言った。私の身代わりになってもらうわよ、仮面の男。
エドが私のことを少しも責めないのは少し意外だった。やっぱり優しい人なんだ……。
「お前には聞きたいことがやまほどある」
王子はそう言ってニコッと口角を上げた。
私は「あ、はい、なんなりと」と思わず顔を引きつってしまった。私が王子の立場だったら、絶対に私に尋問する。……というか、あの仮面の男の仲間だと思われてもしかたないと思う。
私は長椅子から、初めにエドと話していた場所へと移った。
……なんだか、朝の仕切り直しみたいな感じだ。仮面の男に邪魔をされなかったバージョン。スタート!
「ああ、その前に、もうすぐ来るはずだ」
何かを思い出したように王子はそう呟いた。
何が来るんですか? と言い返そうと思った瞬間、ドアをノックする音が部屋に響いた。エドが「入れ」と言うと、扉が開く。
侍女がキッチンカーを押して入って来た。甘い幸せの匂いが漂う。
…………も、もしかして、これは!
「お待たせいたしました」
侍女はそう言って、机の上にティーカップを置いて、紅茶を注ぐ。動いて、寝た後に、こんな贅沢が待っているなんて……。
侍女は静かにケーキの乗ったお皿を机の上に置いて、「失礼いたします」と頭を下げて退室した。
私は花柄の高級なお皿に置かれたフルーツタルトをまじまじと見つめていた。思わず涎が垂れてしまいそうだ。
「食べていいんですか?」
「……そんな目を輝かせるほどのものでもないぞ」
「食べていいですか?」
二度目は少し圧をかけて聞いた。王子は少し引いた様子で「どうぞ」と私を見る。
私は遠慮なく、フォークを手にしてケーキを一口に切り、口に運んだ。
口の中で酸味のある果実と甘いクリームがハーモニーを奏でている!! おいしい~~! これが上質ケーキ!
「……うまそうに食うな」
そう言って、エドも自分の元にあったケーキを口に運んだ。
「いつもと変わらないけどな」
「……王族のいつもと私たちのいつもを一緒にしないでください」
私はエドを軽く睨む。




