50
「スパイ……?」
俺はリックの言葉をオウム返しした。
そんなことはないだろう、と思いながらも、どこかであり得てしまうと思っている自分もいた。
俺に馬鹿なふりをして話しかけてきたことや、演技力、そして、この戦闘能力。
「だが、彼女は家族を殺されているし、実際今も殺されかけていたじゃないか」
リックの言葉に強い口調でセスが反論した。
「僕も違うと思うな」
オーカスも口を開く。
「……俺は認めません」
おお、こっちも意思が強い。……リックは思い込んだら、そればかりになるところがある。彼が突っ走らないように気を付けておかないとな。
ルナは確かに変わっている。だが、俺も彼女はスパイではないと思う。
「美女だからって騙されているんじゃないですか」
リックはそう言って、言葉を付け足した。
たしかに彼女は絶世の美女だといっても過言ではないが、俺はそんな愚かな人間ではない。彼女の容姿だけで判断しない。
彼女の纏っている空気感が穏やかで柔らかいのだ。……当の本人は復讐に燃えているが。
俺は生まれた時からずっとこの王宮で過ごしている。人の腹黒さというのは誰よりも見抜く力があるだろう。その俺がそう思っているのだ。
「彼女は守るべき民の一人だ」
「じゃあ、あの気色の悪い言語を理解していたことやあの状況で王族でもない彼女が動けていたことの説明をしてください」
「それをこれから調べる」
今日はいつも従順なリックがやけに反抗的だ。
それほどルナが煩わしい存在なのか? それとも、俺への危害を心配してなのか?
「…………そういえば、ルイが生きている、と言っていたな」
俺は思い出したようにそう呟いた。セスが俺の言葉に反応して「ルイ、というのは、たしか彼女の弟の名ですね」と補足説明してくれた。
「弟? あの事件で亡くなっているだろう?」
「はい。遺体が消えてしまったのでなんとも言えませんが、亡くなっています」
「……はぁ、一体何がどうなってるのだ。訳が分からない」
俺はため息をついて、片手で頭をクシャッと抱える。
もしかしたら、かなり面倒なことに巻き込まれているのかもしれない。……あの宿に寄ったことが全ての始まりだ。
これも全て運命なのか? ……あの宿に寄ったのは、とある人物にそこを勧められたからだ。
「セスとリックはチェイスについて調べてくれ。オーカスはあの意味不明な言語について頼む」
「「「承知」」」
三人の声が重なる。
俺は部屋に残り、ルナについて調べることにした。




