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「ルナは?」
名前を呼ばれたことにドキッとしてしまう。
……というか、私? 私が男好きかどうか聞かれてるの?
「えっと、何がでしょうか?」
「お前の恋愛観は……、ああ、そうだった。俺の隣にいることだったな」
王子はそう言って、私をからかうように笑う。だが、すぐに「本音はどうなんだ?」と付け足した。
どうなんだって言われても……。恋愛観を語れるような恋をしたことがないのよね……。
さんざんもてはやされてきたけれど、実際私は誰かを好きになったことがない。この人のために身を滅ぼしてもいい! って思うような恋愛をしてみたいとは思ったりもしたけど……、そんな人に出会わなかった人生だった。
私は少し考えて、口を開いた。
「色んな男性に好意を寄せてもらっても、私は愛してもらったことが一度もないんです」
「……つまり?」
王子は私の言いたいことが分からなかったのか、眉をひそめる。
この男もかっこいいことを言っている割には恋愛をしてこなかったに違いない。私は心の中でそう確信しながら、話を続けた。
「『かわいい』『嫁に来い』『好きだ!』なんて言われるけれど、私の腐った性格を知ったら離れていくに決まっているもの。すごく聞こえが悪いけれど、一目惚れされるのって、いい迷惑なんですよ。勝手に期待して、勝手に失望されて……、それがずっと続くと嫌になってくる。それなら、一生みんなから愛されて、恋愛の良い部分だけもらっておこうって気持ちになったり…………。誰かを愛するってすごく知性と品性が必要だと思うんです。…………あ、えっと、何が言いたいかっていうと、私を愛してくれる人がいいです」
最後に少し声を明るくしてそう言った。
それだけ? と思われるかもしれないが、それだけなのだ。
「沢山の男がお前を愛してくれるとしたら? それはお前にとって価値あることか?」
なんだか思いもよらぬ方向から質問された。
沢山の男が私を愛してくれる? ………………いらないわね。愛してもらえる人数に比例して私の価値が大きくなるわけじゃない。
「この世で最愛の人が私を愛してくれることが一番の価値です。私もたった一人でいいです。たった一人を愛して、私もその人からずっと愛され続けるような人間でありたい」
「なかなか良い答えを出してくるな」
「お褒め頂きありがとうございます……?」
「正直なところ、ルナがこれほどしっかりと答えてくるとは思わなかった」
「というと?」
「……俺はまだルナ・グレイディという人がどんな人物なのか分かっていない。初めてルナに出会った時は、この女はまさに愚の骨頂だなと思っていたが、今のお前はあの時と全く違う。……あの言動が全て演技だったのかと思えるほど」
ああ、分かっていたけど、やはり第一印象悪すぎ! 逆によくここまで巻き返したわ、私!
「どのルナ・グレイディが本物なんだ?」




