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外からの叫び声で目が覚めた。
「だ、だれか!! 今すぐ! あ、あ、ああああ!!」
薄っすらと目を開けて、窓の外を見る。
まだ夜が明けたばかりで薄暗い。
朝からこんな悲痛な声で目が覚めるなんて気分が下がる。私はあくびを押し殺しながら、ベッドから出る。
何があったのかと外へ出る前に、ルイの部屋へと行く。
…………なに、この血なまぐさい匂い。
私はルイの部屋の前に立ち、扉を開けようとするが、何故かドアノブに手を差し伸べて開けるの躊躇ってしまう。
なんだろう、この不吉な予感。
大丈夫、昨日まで元気に話してたんだもの。何もない。
いつも通り、爆睡しているはず……。
私はスゥッと息を吸い込み、ガチャッと扉を開けた。
…………これはルイの部屋なんかじゃない。
私は思考が停止したままルイの部屋へと足を踏み入れる。
何があったの……。荒らされているだけならまだ良かった。床が血の池となっている。
私は裸足のまま彼の部屋を徘徊する。タンスは倒れており、ベッドも壊れており、ボロボロだ。
あちこちに血が飛び散っていて、私は思わずその匂いに倒れそうになった。
……ルイは? ルイはどこにいるの?
もしかしたら、これはルイの血じゃないかもしれない。
私はそんな微かな希望を抱いた。というか、抱くしかなかった。
取り乱さないように必死に平静さを保ちながら、ルイの部屋から外の様子を見る。
ホテルの前に沢山の人だかりだ。全員が青ざめた様子で見つめている。マントをしているが、王子もそこにいた。
私は急いでルイの部屋を飛び出し、外へと向かう。
どうか、無事でいて。
私は心の底からそう願った。
ホテルを飛び出すと、私のホテルの前で集まっていた町の人たちと目が合う。
……民衆がこんなに集まるなんて。
皆、私を悲惨な目で見ている。私はただ立ち尽くすことしか出来ない。
…………何よ。
私はなんとか足を動かす。皆が見ている視線の先へと振り向いた。
その瞬間、視界に入ってきた「なにか」を見て、思わずその場で吐いた。
無残な姿にされた三人が磔にされていた。……かろうじて服は着ていたが、血だらけでボロボロだった。
見るに堪えないほど痛めつけられていた。
「だ、だれか、助けて」
私は何とか声を絞り出した。
「ねぇ、見てないで誰か下ろしてよ」
誰も何もしない。
ただ気の毒な目で私を見ているだけだ。
「医者を呼んで……。お願い、家族を助けてよ」
私は王子の方へと視線を向けた。
彼は私と目が合った瞬間、目を逸らした。その瞬間、私はこの国の王子に心底失望した。
立場上、私に手を差し出すことはできないのは分かっている。それでも最後の頼みの綱を容赦なく切られたような気がした。
……ああ、誰も私を助けてくれない。
もしかしたら、まだ息があるかもしれない。私は泣きたい気持ちをグッと堪えて、磔になっている家族を見上げた。
自力でなんとかするしかない。
「くそみたいな世界」
それだけ呟き、私はホテルの壁をよじ登る。パイプにしがみつき、レンガに足を引っかける。運動神経はある。
「おい! 危ないぞ」
下から中年男性の声が聞こえるが、無視して私は必死に上り続けた。
危ない? ……私の家族の方がよっぽど危ない目に遭っているじゃない。
私は磔にされた家族の元へと向かう。両親の間にルイがいた。ほとんど原型がないぐらい顔は殴られている。
また吐きそうになったが、必死に耐えた。