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ということがありました、というオーカスの言葉に俺はルナの事を考えた。
カレンは優秀だが、陰としての実力はまだそこまでない。庭園にオーカスがいたことは勿論知っていた。オーカスは陰の中でもトップクラスの人物だ。
カレンはオーカスを「王族」だということは認識しているだろうが、「陰」ということは認識していないだろう。
「にしても、あの最後の笑顔は反則でしたね~」
自慢するかのようにオーカスは俺に向かってそう言っていた。
オーカスは俺の半分血のつながった兄だ。王族だが、王位継承権を持たない。王宮でのびのびと過ごしている印象が大きいが、彼はなかなかの実力者だ。
ミステリアスな雰囲気を纏っているが、数少ない信頼できる男だ。
「あと、僕が結界を張ったことにも気付いていたっぽいんですよね……。気のせいかもしれないですけど」
「王族以外の人間が魔法を見破るなんてできるわけないだろう」
「……そうなんですけどねぇ」
オーカスはどこか腑に落ちない返答をする。
「少しそのことについて調べてみます。……彼女、なかなか興味深いので」
「ルナに興味を持ったか?」
「持たない方が難しいですよ、あんな変な女。そういうエド様も彼女にメロメロじゃないですか」
「はぁ!?」
俺は思い切り顔を顰めてしまった。
「女性にご自分の過去の話をするなんて今までありました?」
俺は言葉に詰まる。その様子を見てオーカスは楽しんでいるように見えた。
「あ~あ、お前はいいよな。あいつの過去の話を聞けたんだから」
「あ、もしかして嫉妬してますか?」
「別に」
俺は頬杖を突きながら、口を尖らせた。
俺にはしてくれなかった過去の話を会ってすぐカレンとオーカスにしたことが少し気に障っただけだ。だが、これは嫉妬ではない。
…………嫉妬云々よりもルナの過去の話にも驚いたが、その身体能力も凄いものだ。
カレンは決して弱い従者ではない。ちゃんと訓練を受けている陰だ。そんな彼女を見事に捕獲してしまうとは……。一体どこでそんな技を……。
磔にされた家族を救い出そうとしていた彼女の動きはそこまで機敏ではなかった。……謎は深まるばかりだ。
「誘拐の話、聞いていて心地よくなかったですけどね」
「……まあな」
顔が良い、という言葉で全て片付けてきた彼女の気持ちが分かった気がする。
誘拐犯をこの手で殺したいほど憎い。無邪気な少女を地獄に落とした罰を与えたい。
「すごい顔してますよ」
オーカスの言葉に我に返った。
「そんな殺意に満ち溢れた形相していると、綺麗な顔が台無しですよ」
「……まだ少女が見つかっていないということは未解決事件のままなんだな」
「そうですね。ですが、今から犯人を捜すなんて無理難題ですよ。世の中にどれだけ未解決事件があると思っているんですか」
「それは、分かっている。……その子が生きている可能性、どれぐらいあると思う?」
「限りなくゼロに近いんじゃないですかね」
遠慮のないオーカスの言葉に俺の気分は更に下がった。
 




