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なにも言い返せなくなっているカレンに私は自嘲した。
「顔が良いって確かに嫌われる要素かもね。誘拐もされたくないし、殺されたくもないもの」
「そんなつもりで言ったんじゃ……」
カレンは申し訳なさそうに口を開いた。
もちろん分かっている。少し嫌な言い方をしてしまったかもね。私は私を悲劇の美少女なんかで終わらせたりしない。
私は神の血を受け継いでるのよ? 人間になんて負けやしない。この顔を剣にでも鎧にでもなんにでもしてみせる。
「私は嘆いたりしないわ。相手が悪の組織だろうがなんだろうが潰してやるもの」
強い意志で私はそう口にした。私の迫力にカレンは慄いたように見えた。
言いたいことは言い切った。私は落ち着く為に周囲を見渡した。……薄い結界がこの場所に張られていた。
……魔法が使えるのは王族だけ。結界を張ったのはオーカス以外考えられない。
もしかして、人を寄せ付けないために? ……意外と人の心あるのね。
私は王族でないから、魔法は使えないが、神界から戻って来てから魔法が使われているか否かを視えるようになった。魔力を持つ者にしか識別できない能力を授かった。……授かったというよりも、元々備わっていたものが開花したみたいな感じかな。
どうせなら魔法を使えるようになりたかった。……神の血が入っているのだから使えてもいいはずなのに。
「……なによ、この風格」
私が魔法について考えていると、カレンがボソッと何か呟いた。
私は彼女の方へと視線を戻した。彼女は真っ直ぐ私を見つめていた。彼女の瞳からはさっきの嫌悪は消え去っていた。
「こんなのずるい……」
「ずるい?」
「美人なのに嫌いになれる要素がないってずるすぎるわよ」
彼女はそう言い切った後、手に持っていた石を地面に落とした。
そして、ゆっくりと私に近付いて跪いた。
「じゃあ、一番近くで私の粗探しをしないとね」
「……望むところよ」
私の言葉にカレンは一瞬固まったが、すぐに口角を上げて答えた。その爽やかな笑顔の隣でオーカスが「あ~あ、落ちたな」と小さく口にした。
「顔が良い女の生き様をしかと見届けてちょうだい」
私はそう付け加えて、満面の笑みを彼女に向けた。




