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……全部正しい。
この状況を見ただけだと、どっからどう見ても私は変質者にしか見えない。それを顔色一つ変えずに判断している。なんか変な人。
「君に変だなんて思われたくないね」
「え? なんで!?」
「顔に書いてる。そんなことよりも、どうしてカレンを連れているんだい?」
「彼女を知っているんですか?」
「まあね。僕もここの家の人間だから」
エドの兄妹……? にしては顔があまり似ていない。
「異母兄弟だよ。僕は正式な王位継承者ではない。まぁ、そんな人間ここには沢山いるよ」
沢山いるの!!?
私は声に出さず、心の中で大きな声を出した。
この国では、嫡子じゃなければ王位継承はできない。……まぁ、嫡子がいなければ話は別だけど。
「国王の女好きには参るよ。……あ、これ内緒ね」
オーカスは小さな笑みを作る。
国民が知っている王族はエドワードとまだ幼い姫君エミリアだけだ。正当な後継者でない王族は存在するとは噂では聞いていたが、まさか沢山いるとは……。
もしかして、それでお妃様も殺された……?
詮索するのはやめておきましょ。変なことに首を突っ込んで殺されたくなんかないもの。
「あの……、オーカス様、手を貸していただけませんでしょうか?」
後ろから弱々しい懇願が聞こえてきた。
オーカスはカレンへと目を移し、笑みを浮かべる。
「どうして僕が? 君は陰だろう? 自力でなんとかしなよ」
悪魔だぁ……。
カレンをこんな状況にしている私が言うのもなんだけど、オーカスは人の心がないのか?
「助けてあげないんだ、って顔してるね」
「王族の陰が捕まってるのよ?」
「平民に捕まる程度の陰など必要ない」
……厳しいけど、ごもっともだ。
「それとも、君がただの平民でないってことの証明になったのかもしれないな」
「私が保証します。この女はただの宿屋の娘なんかじゃないです」
カレンが口を挟んできた。
どんどん話がややこしくなる。私はただ情報を手に入れたいだけなのに……。チェイスという組織に近付きたいだけなのに……。
「だが、これほどの美女だ。護身術を身につけていると言われても納得がいく。……それにしては服をビリビリに裂いて完璧な縛りをしているが」
その言葉に私は自分のドレスがボロボロだったということを思い出した。
男性の前でなんて格好!! こんな恥ずかしい姿でずっと話していたなんて!!
顔が熱くなるのが分かった。その様子にオーカスはハハッと軽く笑う。
「これだから、顔の良い女は嫌なんです」
「え?」
私はカレンの言葉に後ろを振り向いた。彼女は嫌悪感に覆われた表情で私を見ていた。私は腰に巻いていた布を取る。
ああ、随分と体が軽くなったわ。
「オーカス様、彼女を担いで……そうね、あそこまで運んでくださらない?」
私は近くにあった庭園の長椅子を指差して、オーカスに丁寧にお願いした。




