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とんでもないスピードで陰は追いかけてくる。このままだとすぐに捕まる。
も~~! このスカートのせいで上手く走れない!
「なんで足速いんだよこの女」
すぐに追いつけると思ったのだろう。だが、私はそんなに甘くない! 私のことを捕まえるのなら、必死で捕まえてくれないと!
自分でもよく分からない闘争心を燃やしながら、私は細い通路を疾走しながら考えた。
私、何がしたかったんだっけ。
家族を殺した者たちに復讐を……。それで、犯人を見つけ出さないといけなくて……。
「捕まえたっ」
「私が捕まえた」
私は陰の言葉とともに振り返り、短剣の持っている手を思い切り掴み天井へと上げた。陰の手から短剣が落ちる。
そのまま、鳩尾を膝蹴りして、その場に影をねじ伏せた。陰の腕を背中の後ろへと回し、その上へと乗る。全く身動きがとれないようにした。
「残念、私の勝ちね」
「こんな護身術、一体誰に教わったんだ」
「か……わいい子はこれぐらいのことは身に着けておかないとね」
神様、と言おうと思ったがやめておいた。
我ながら無駄の一切ない華麗な動きだったと思う。神界で過ごした五年の力を発揮できた。
私は陰の顔に巻かれていた布を勢いよく取った。
「…………え、女?」
布の下に隠れていた顔に私は驚いた。
オレンジ色の背中程まである長い髪を三つ編みで一つにまとめていた。
まさか女だと思っていなかったから、私は陰の性別に暫く思考停止してしまう。そんな私に喧嘩を売るように彼女は口を開いた。
「女で何か悪い?」
「随分と強気な態度ね。立場分かってるの?」
「殺したければ、殺せば? 弱いものが殺されるのは自然の摂理よ」
「殺さないで、って叫んだりしないの?」
「はぁ?」
私の質問に彼女は思い切り顔を顰めた。
「命乞いするようなものが王宮の陰になれるわけないでしょ」
それはそうだ。
私は納得しながらギュッと彼女が痛がるように腕に力を込めた。関節技はかなり痛い。
「私についてよ」
「はぁ!?」
私の言葉にまた彼女は顔を顰めた。
「私の味方になって。そしたら、命は助けてあげる」
脅すようにそう言った。
「誰があんたなんかに」
「望みはなんでも叶えてあげると言ったら?」
「…………あんたにそんな力があるわけ」
「望みを言ってごらんなさい」
私はにこやかに彼女に向かってそう言った。
なんだか、私、悪魔みたいじゃない……?
 




