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…………あった!!
一つだけ音が鈍く、感触を違うものを発見した。
足音がもうすぐそこまで迫っていた。私は何も考えず、その壁をグッと押した。その瞬間、私よりも少し大きな壁の扉がクルッと半回転した。吸い込まれるように壁の裏へ入ってしまった。
「誰かいたような……」
私が壁の中に入ったのと同時に女性の声が聞こえた。きっと、侍女だろう。
私は心の中で盛大に安堵のため息をついた。
間一髪~~~! 良かった~~~!!
ここに入れたからって安心できないけど……。まだまだ気を引き締めておかなくっちゃ!
横に人が三人ぐらい並べるぐらいの細長い通路。……明かりはあるけれど、そこまで視界良好ではない。
「なにしにここに入った?」
後ろから声をかけられた。思わず体をビクッとさせながら、声の方を振り向いた。
……いつの間に。気配を完全に消して現れるなんて流石陰。
全身黒い布で覆っていて、顔が分からない。黒い瞳を持った垂れ目ということだけが分かる。垂れ目って朗らかな印象を与えるはずなのに、全然そんなことない。
「そんな殺気向けないでよ」
「質問に答えろ」
「貴方がずっと監視してくるからでしょ」
「……なぜ気付いたのだ?」
「あんな熱い視線向けられたら気付くわよ」
「平民が王宮の隠し通路なんぞ知ったら殺されるぞ」
……話、逸らされた。まぁ、仕事だもんね。
私は「殺されちゃうのかぁ」と呑気に答える。
そりゃそうだ。私なんかの身分の者が知っていいはずがない。……けど、陰と対面しても不思議と怖くなかった。
「まだ自分の置かれた状況を理解していないようだな」
そう言った瞬間、陰は躊躇いなく私に攻撃をしかけてきた。
私は咄嗟に距離を置いて、陰からの攻撃をかわす。どこからか出してきた短剣を陰は握りながら私を驚いた目で見ている。
まさか攻撃をかわされるとは思っていなかったのだろう。
このドレス、動きにくい~~! ちょっと破れちゃったし……。王子にバレないように後で縫っておこう。
「まっっって、話し合いしようよ!」
私は大きな声を出す。こんな狭い所で戦いたくないし、王宮の人間を敵に回したいわけではない。私はただ…………、ただどうしたいんだっけ?
「話し合うことなどなにもない。ここで消えてもらう」
「王子の意見を聞かずに勝手にそんなことしていいの?」
私が即座にそう言い返すと陰の動きが止まった。
陰の仕事は私の監視、殺せとは言われていない。私を勝手に暗殺していいわけがない。
「怪しい動きがあったと報告すれば済むだけだ」
ちょっと~~~!!!
「貴方のこと嫌い!」
私はそう叫んで、全力で細い通路を走り出した。




