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私は顔が良いだけ  作者: 大木戸 いずみ
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3

 なによ!!! あのクソ王子!!

 私の魅力が分かんないの?

 

 私は自分の部屋に入って、思いっきり枕を殴っていた。

 壁とか殴るのは痛いから、枕を殴るのが一番良い。全てを吸収してくれる。 


「信じられない!」


 私がそう叫んだのと同時にガチャッと部屋の扉が開いた。


「何があったんだよ」

 

 ルイだ。私は自分より背の高い弟を見つめながら、そっと枕をベッドの上に置いた。


「あの王子、最低だったよ」

「まともだよ」

「ルイまであいつの味方するの?」


 分かり切っていたことだが、今は私の味方がほしかった。

 傍から見れば、私が百失礼な人間だ。


「世の中、顔だけじゃないって分かった?」


 ルイは私の方へと近づいてきて、ベッドに腰を下ろす。

 どうしてこの男は私の部屋を自分の部屋のようにくつろぐのだ。


「ううん、顔なの」

「なんでそこまで顔にこだわるんだよ」

「私は顔が良いから」


 弟は盛大にため息をついた。

 もう私に何を言っても無駄だと思ったらしい。

 実際、顔が良いから得することの方が良い。「お嬢さん、別嬪だね」と言われてお買い物ではいつも得をしてきた。

 男からはお茶に誘われ、女には羨ましがられる。

 それに……、全ての事象を「顔が良いから」で片づけると上手くまとまるのだ。


「その考え方を変えねえと、まじで一生結婚できねえぞ」

「それは男の問題でしょ」

「あのなぁ、俺は心配して」

「これまでの私を正当化するためにも……、顔だけが良いからで通していかないといけないの」


 私はルイの言葉を被せるようにしてそう発した。

 ルイは少し気の毒そうな表情で私を見つめた。


「あれは別にルナのせいじゃない」


 彼の口から出たその切ない声に私は余計に惨めな気持ちになった。

 その気遣いが余計に私の信念を強くさせるのだ。 

 私は出来るだけ明るい声と笑顔で応えた。


「ううん、私が可愛すぎたせいなんだよ」

「……ルナほど生き辛い人いねえと思うよ」

「なんで~? 私、美少女に生まれて幸せだよ」

「無理し過ぎるなよ」


 我ながらに良い弟だ。

 この弟の奥さんになる女の子が羨ましい。


「ルナがどんなに最低でも、俺はルナの味方だから」

「私が人殺しでも?」

 

 ルイは言葉に詰まる。

 彼の言葉は純粋に嬉しかったのに、返答しづらいことを聞いてしまった。

 ルイを裏切らないような人間になりたい。家族だけがありのままの私を愛してくれている。

 お父さんもお母さんもルイもみんな大切だ。傷つけたくない。


「ルナは背負わないでいい責任を抱えているんだよ。もう少し楽に生きていい」

「そうかな~~」


 私は適当に相槌を打つ。

 きっとルイのペースに巻き込まれたら、私が私でいられなくなってしまう気がする。


「それに、俺はルナが人を殺したとしても、ルナの味方だから。俺ら家族みんなルナの味方だから」

「なにそれ」


 私は思わず彼のその真剣な様子に笑ってしまった。


「だから、ルナには幸せになってほしいんだよ」

 

 ルイからのその言葉で今の私が救われた気がする。

 胸が熱くなるのを必死に落ち着けながら、私は「ありがとう」と満面の笑みを浮かべた。心からの笑みだった。

 ルイはその私の様子を見て、固まった。

 私がお礼を言うなんて珍しいから?


「確かに、ルナは顔が可愛いだけで乗り切っていけそうだな」

 

 私は思わず「なにそれ」とハハッと声を出して笑う。

 普段ムカつく弟だけど、可愛い弟だ。

 ルイが私の部屋を去った後、私はベッドにダイブした。

 さっきまで王子に抱いていた怒りが嘘みたいに消えている。

 私はそのままゆっくりと眠りについた。 

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