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なによ!!! あのクソ王子!!
私の魅力が分かんないの?
私は自分の部屋に入って、思いっきり枕を殴っていた。
壁とか殴るのは痛いから、枕を殴るのが一番良い。全てを吸収してくれる。
「信じられない!」
私がそう叫んだのと同時にガチャッと部屋の扉が開いた。
「何があったんだよ」
ルイだ。私は自分より背の高い弟を見つめながら、そっと枕をベッドの上に置いた。
「あの王子、最低だったよ」
「まともだよ」
「ルイまであいつの味方するの?」
分かり切っていたことだが、今は私の味方がほしかった。
傍から見れば、私が百失礼な人間だ。
「世の中、顔だけじゃないって分かった?」
ルイは私の方へと近づいてきて、ベッドに腰を下ろす。
どうしてこの男は私の部屋を自分の部屋のようにくつろぐのだ。
「ううん、顔なの」
「なんでそこまで顔にこだわるんだよ」
「私は顔が良いから」
弟は盛大にため息をついた。
もう私に何を言っても無駄だと思ったらしい。
実際、顔が良いから得することの方が良い。「お嬢さん、別嬪だね」と言われてお買い物ではいつも得をしてきた。
男からはお茶に誘われ、女には羨ましがられる。
それに……、全ての事象を「顔が良いから」で片づけると上手くまとまるのだ。
「その考え方を変えねえと、まじで一生結婚できねえぞ」
「それは男の問題でしょ」
「あのなぁ、俺は心配して」
「これまでの私を正当化するためにも……、顔だけが良いからで通していかないといけないの」
私はルイの言葉を被せるようにしてそう発した。
ルイは少し気の毒そうな表情で私を見つめた。
「あれは別にルナのせいじゃない」
彼の口から出たその切ない声に私は余計に惨めな気持ちになった。
その気遣いが余計に私の信念を強くさせるのだ。
私は出来るだけ明るい声と笑顔で応えた。
「ううん、私が可愛すぎたせいなんだよ」
「……ルナほど生き辛い人いねえと思うよ」
「なんで~? 私、美少女に生まれて幸せだよ」
「無理し過ぎるなよ」
我ながらに良い弟だ。
この弟の奥さんになる女の子が羨ましい。
「ルナがどんなに最低でも、俺はルナの味方だから」
「私が人殺しでも?」
ルイは言葉に詰まる。
彼の言葉は純粋に嬉しかったのに、返答しづらいことを聞いてしまった。
ルイを裏切らないような人間になりたい。家族だけがありのままの私を愛してくれている。
お父さんもお母さんもルイもみんな大切だ。傷つけたくない。
「ルナは背負わないでいい責任を抱えているんだよ。もう少し楽に生きていい」
「そうかな~~」
私は適当に相槌を打つ。
きっとルイのペースに巻き込まれたら、私が私でいられなくなってしまう気がする。
「それに、俺はルナが人を殺したとしても、ルナの味方だから。俺ら家族みんなルナの味方だから」
「なにそれ」
私は思わず彼のその真剣な様子に笑ってしまった。
「だから、ルナには幸せになってほしいんだよ」
ルイからのその言葉で今の私が救われた気がする。
胸が熱くなるのを必死に落ち着けながら、私は「ありがとう」と満面の笑みを浮かべた。心からの笑みだった。
ルイはその私の様子を見て、固まった。
私がお礼を言うなんて珍しいから?
「確かに、ルナは顔が可愛いだけで乗り切っていけそうだな」
私は思わず「なにそれ」とハハッと声を出して笑う。
普段ムカつく弟だけど、可愛い弟だ。
ルイが私の部屋を去った後、私はベッドにダイブした。
さっきまで王子に抱いていた怒りが嘘みたいに消えている。
私はそのままゆっくりと眠りについた。