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「……まぁ、何でもいいけど」
「あの、一つお聞きしてもいいですか?」
「何?」
彼の嫌な表情に負けず、私は思っていたことを口にした。
「木の上で寝るのって心地いいんですか? 体、痛くなりません?」
木登りを楽しむのは理解できるが、木の上で睡眠をとることは理解できない。良質な睡眠からは程遠い気がする。
「……ここだと誰にも邪魔されないから気に入っているだけだよ。別に寝心地が気に入ってこの場所を選んでいるわけじゃない」
「落ちたことないんですか?」
彼はさらに続ける私の質問に面倒くさそうに眉間に皺を寄せた。
「あるわけないだろう。……それに、ここは意外と王宮の秘密知れたりできるからね」
悪意のある笑みを向けられる。
目にかかる金髪から見える目はヘーゼルナッツの瞳だった。彼はあくびをしながら、更に言葉を加えた。
「知った秘密は口外しないほうが身のためだよ。君みたいな平民はすぐに殺されちゃうからね」
「……どうして私が平民って」
「僕は貴族の顔を全員覚えている」
ちょっと怖すぎ~~~!
どんな記憶力? 王族は皆そうなのかもしれない。それでも、貴族全員覚えてるって脳みその容量どうなってるのよ。……そもそも、興味のない人の顔を覚えるなんて苦難すぎる。
「っていうのは嘘で」
「嘘なんかい」
思わず突っ込んでしまった。王族に対して無礼を働いてしまう。
彼はそんな私の言葉を気にせずに話を続けた。
「君みたいな顔がいたら忘れるわけがない」
これは、………………褒められている?
いや、まだ分からない。ダメよ、まだ油断しちゃ。
「というと?」
「どこか別の世界から来たのかと思うほど……」
「思うほど!?」
褒められるのだろうと少し嬉しくなって私の声が僅かに大きくなる。
「浮いている」
想像と違う答えで私は思わず口を少し開いてしまった。
固まったまま、私は頭の中で「浮いている……!?」と自問自答する。眉をギュッと眉間に寄せて、考える。
いや、むしろ馴染んでいるでしょ?
この可愛い顔でこの高価なドレスを着こなして、品性のある所作もしっかりと体に叩き込んでいる。
私の表情を見て、彼はハハッと声を出して笑った。
「なにが面白いんですか」
「百面相していてかわいいなって」
「……かわいい?」
かわいいって言われたけど、私が求めていた可愛いと種類が違う気がする。
「こどもみたいで」
やっぱり。
「そんな美貌だと、苦労するんじゃない?」
追加でそう言った言葉に私は「それは貴方もじゃないですか?」と咄嗟に返した。
苦労するなんて思われたくない、という気持ちが強かった。
私は「失礼します」と頭を下げて、その場を後にした。




