28
私は庭園にある椅子に座りながら暫く「チェイス」について考えた。
王子は仕事があると言って戻ってしまった。……王子も暇じゃないもんね。
嫌なことがあったら、忙しくしている方が良いという。だが、今の私はかなり時間がある。その時間を有意義に使おう。
魔法を使用できる者が関与してるって、チェイスの中に王族がいるってこと?
神が王族に魔法を使用できるように施したのよね……? 確か、神たちはそんなことを言っていた気がする。
……話がどんどんややこしくなってきたわ。どうしてそんな悪の組織が私の家を狙うのよ。
「あ~~! もう! 意味わかんない!」
「うるさい」
私が声を上げて空を見上げたのと同時に、木の上で休憩していた男と目が合った。
うわ!! 人がいる!!
私は心の中で叫んだ。人がいたことへの驚きと、王子との会話が全部聞かれていたという焦りが混ざっていた。
……いるなら、もっと存在感出してよ。
多分、王子はかなり重大な秘密を私に吐露してたよ? 聞かれたら絶対にまずい内容だったよ。
いや、でも、王宮の庭の木で寝れる人物って……、彼も王族?
「僕の睡眠を妨げないで」
彼はそう言って、また目を瞑った。
…………え、寝るの? この状況でもう一度眠りに入るの?
私は彼の想像とは違う対応に戸惑う。これは何も知らないふりをして、この場から離れた方が賢明?
私は眠っている男の顔を見る。高貴な顔をしていた。髪色は金髪だったが、王子ほどの透明感はない。……多分、王族なんだろうな。
私はそんなことを思いながら、そっとその場を離れることにした。
「君、エドのこと好きなの?」
私が椅子から立ち、足を進めた瞬間、上から話しかけられた。
寝たんじゃなかったのかい、と心の中で突っ込みながら彼の方へと向いた。
「エドワード様のことですか?」
「うん、親密そうだったから」
これは、もしかしたら良くない噂が立つかもしれない。
人はスキャンダルが好きだ。私のせいで王子のイメージダウンはしたくない。それに私たちは決して恋仲ではない。これは事実だ。
「尊敬していますが、貴方様が思っているような関係ではないです」
私ははっきりとそう言った。
「どうかな……。エドが女性とまともに話しているのを初めて見たよ。しかも、母親の話まで」
やっぱり、ちゃんと聞かれていた。
どうしよう~~っ、と心の中で慌てつつも、彼も王族ならお妃様の件を知っているだろう。……絶対そうであってほしい。
「敵が一緒というだけです」
私は彼のペースに持っていかれないように、強い口調でそう言った。




