26
突然、話が変わった。
……これは、黙って聞いとけばいい?
「お前が適当に歩くから」
「ついてきたのは王子でしょ」
思わず突っ込んでしまった。
王族の方の話をタメ語で中断させてしまったが、言わずにはおれなかった。
私が探索するのを陰に見張らせておけば、王子は私にわざわざついてくる必要はない。
「すみません。それで?」
私は王子が何か言う前に謝り、話の続きを聞いた。
「ここで母が殺された」
……おっと!!
いきなりとんでもない内容がぶっこまれた。
私は突然の告白に馬鹿みたいに口を開けてしまった。絶対にエドの前でする表情じゃない。
どうしてもっとカワイイ反応ができないのか……。
前までの私はあざとく生きてきたはずなのに……。「顔が良い」ってことに頼らなくなってしまった私はここまで色気のないものなのか。
これからの私の人生「顔は可愛いのに勿体ない」って言われることが多くなりそうだ。
……いや、ダメダメ。私はこの顔を武器にするんだから!
「なんて顔してんだ」
王子は呆れた表情で私を見る。私は「ちょっと衝撃過ぎて」と口を閉じる。
庭園で人が殺されていることは何となく察していたが、まさか王子の母君が殺されていたとは……。
「ん? でも、お妃様って生きているはずじゃ……」
「ああ」
「えっと、私だけパラドックスの世界に入っちゃいました?」
「国民の中では生きている。もう存在はしないけれど」
「つまり、国民を騙していると」
「おい、言い方」
エドワード、睨まないで。
私は心の中でそう呟いた。
確かに私の言い方も悪いけれど、突然とんでもない真実を知る国民の身にもなってほしい。
実は私の母親が神様だったってこともなかなかの衝撃だったけど、お妃様が実は死んでいたってことの方が驚く。
「騙しているわけではない。王宮の闇をわざわざ露呈する必要はないだろう」
「じゃあ、頃合いを見て病死とかにするってことですか?」
「まぁ、そうだな……」
それでいいのか? とは思うけど、人の家のことだ。口を出さないでおこう。
それに私は自分のことで精一杯だ。他の家……、ましてや王家の問題に首を突っ込んでいる場合じゃない。
「自分を私に重ねました?」
「……そうなのかもしれない。復讐は止めない。ただ、俺の前でもう誰も死んでほしくないんだ」
人は皆何かを抱えている。キラキラした王家は実は血で染まった世界。
優雅さの裏には私達が想像し得ない残酷さが隠されているのだ。
「街を出たのは、お妃様の死と何か関係が?」
私の質問に「ああ」とだけ答える。
きっと、これ以上は何も話してくれないだろう。というか、充分すぎるほど王子の口から色々な情報を聞いた。……犯人のことは一切聞けていないけど。
あの日、内緒で街に来て、私の宿の泊ったのはお妃様の事件を調査するため?
「久しぶりにこの庭園に来たってことは、殺害されたのは結構前なんですか?」
未だに解決していないのか……。
「三か月ぶりぐらいかな。それまでは毎日ここに足を運んでいた。……ここは母上が好きな場所だったんだ」
「なんだか重い話ですね」
もっと良い相槌はなかったのかと我ながら自分を殴りたい。
けど、傷のなめ合いをしていたって意味がない。王子はきっともう既に嫌というほど周りに慰められているだろう。
上辺だけの同情などいらないはず。




