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「それで、どこに行くつもりだったんだ?」
王子を無視して歩き出した私に話しかける。
まさか付いて来るとは……。まぁ、このお城で私は部外者だからしょうがないのか。
「探索?」
「王宮を気安く歩き回るな」
「見られたら困るものでもあるんですか?」
王宮の中なんて平民に見られて困るものしかないだろう。
本来なら、私は王宮の出入りを許されるような者ではない。それに、別に王宮のあれこれを嗅ぎまわりたいわけでもない。
……ただ、部屋にずっと一人でいるのが窮屈なだけだ。
私は長い廊下を歩きながら、少しだけ窓の外を眺めた。こんなに大きくて立派な窓なのに、簡単に外に出ることは許されない。
この厳格さに幼い頃から慣れていたとしても、やっぱり不憫に思ってしまう。
「王宮ってやっぱり窮屈な世界ですね」
私の言葉に王子は少し間をあけて「ああ」と頷く。
「あの失礼を承知でただの疑問をぶつけてもいいですか?」
「断っても聞いてくるだろ」
「おお~~、エドワード様、段々私のことが分かってきましたね」
王子は軽くため息をついて、「で、なんだ?」と少し嫌そうな顔を私に向けた。
「平民になりたいと思ったことはありますか?」
「……ない。俺はこの立場を誇りに思っている」
「と、言えって習いました?」
感情のこもっていない彼の言葉に私はついついいらない言葉を言ってしまった。
私の発言に王子は顔を歪めたが、「お前は?」と話を私に振った。
「平民をやめたいと思ったことは?」
「ありますよ。家族が殺される前は私がいるべき場所はこんなところじゃないって思っていました。……けど、今思えば平民が一番良いんですよね。そして、平民こそが国の宝です。大衆は強い力と化けるので」
朝からお天道様も驚かれるぐらい真面目な話をしている。王子が私の回答にどう思ったのか分からないが、少し驚いた表情で私を見ていた。
その後、何か考える素振りを見せた。
……なにこれ。私、審査されてる?
もう少し緩やかに朝を迎えたい。重い朝はもういらない。
「けど、やっぱり贅沢もしたいですね~~」
少し空気が和らぐかと思って言葉を付け足したが、王子はさらに私に質問を問いかけた。
「ルナにとって、贅沢ってなんだ?」
……心理テスト?
それか、王子は私のことが好きなのか? 別に私にとっての贅沢を知ったところで何も得られないだろう。私の贅沢なんぞこの国の脅威になるはずがない。
「知ってどうするのですか?」
「答えろ」
王子に「答えろ」と言われたら、逆らうわけにはいかない。
私は足を進めながら、少し考えた。
こういうのは考えない方が良い。感じるままに答えるのが正解だ。……私にとっての贅沢。
「帰る家があること、かな」
私はふと家族との生活を思い出した。
ルイのよく食べる姿を見るのが好きだった。その様子を両親が微笑みながら見ている空間を愛していた。
ごくありふれたどこにでもある普通の食卓が恋しい。
あの時は、そんな当たり前のありがたみに気付かなかった。
……失って初めて気付くことがある、ってよく言うけど、本当なんだな。
「ルナにとってここが居心地の良い家になることを願ってるよ」
……王子、それはもうプロポーズだよ。




