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私が王子の頬を触った瞬間、さっきまで惚けていた侍女がギョッとした顔をした。
まるで私が触れてはいけない神聖なものに触れてしまったかのような雰囲気が流れた。
幸い、私と侍女と王子の三人しかここにはいない。もしかしたら、陰が天井からこの様子を見ているかもしれないけれど……。
王子に触れた瞬間、心なしか殺気を感じたし。きっと、見ているのだろう。
「これは流石にやり過ぎですか?」
「いや、別に、ただ驚いただけだ」
王子は目を丸くしながら私を見ていた。
今までこんなことをしでかす者はいなかったのだろう。いるとすれば、明日には首と胴体が繋がっていない。
つまり、私も死刑?
「王子の頬に触れただけで殺されるのか……。まぁ、常識がない者は極刑にすればいいと思うけど……。私の命も短かったな……」
「変な奴だな。不敬だと分かっているのに自ら死にに行くのか」
「数秒先すら保証されていない命って思ったら、自由に生きたいし。……私は王子のように守られているわけでもない。だったら、自分の人生、自分で舵取っていきたくないですか?」
私は彼を試すように視線を向けた。
王子は私の生き方を否定するわけない。きっと、彼は誰よりも私みたいな生き方を望んでいる。
窮屈な王族という世界から放たれたいと一番願っているのはエドワードだ。
私の言葉に王子は頬を緩めた。その楽しそうな表情に私は朝からイケメンのキラキラを過剰摂取してしまったと目を細めそうになった。
「やっぱり、会った時のままだな」
「それって褒められてます?」
「ああ。お前はこれからも自由奔放に生きてくれ」
「私、そのうち首をはねられたりしないですか?」
私はそう言って、首元を人差し指でピッと線を引いた。
「いや、俺が出来ない生き方をしている者を見るのは楽しい」
「それは光栄です」
首を傾げながらそう答えた。
王子に気に入られているのなら、私の命はある程度保証される。良かった。
「……出会った時と違うところは、馬鹿な言動にも聡明さを感じられる」
「じゃあ、出会った時は脳内お花畑……いや、もはや脳内空っぽの馬鹿女が馬鹿なことを言っていると思われていたわけですか」
「まぁ、そうだな」
「見る目ないですね、王子」
私はそう言って、思い切り笑った。
もちろん、王子は見る目がある。出会った時の私を切り捨てて、今の私を拾ったのだから。
賢明な判断だ。
けど、こうやって一国の王子をからかう平民という立場が面白い。
私はこれからも王子に殺されない程度に気に入られたままでいとこう。




