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部屋を勝手に出て良いのか分からない。
……暇だし、出ちゃっても良いよね。それに王宮で過ごしていいって言われているってことは、王宮を自分の家だと思っても大丈夫って解釈でオッケー?
まぁ、何か色々言われたらエドワード様に良いって言われているので〜って言って乗り切ろう。
よし! 外に出よう!
その時だった。天井の上から微かな物音が聞こえた。
これは……、もしかして、私ってば監視されてる?
そりゃそうか、どこの馬の骨か分からない女がいきなり城に住むなんて言っているんだもん。監視の一人や二人つけられておかしくない。
戦いの女神イザベラに教えてもらった知識が早速役に立ちそうだ。
私は目を瞑り、耳を澄ませた。集中して、敵の気配を感じ取る。……敵ってわけでもないのだろうけど。
王家に仕えている陰を「敵」だなんて言ったら、怒られる。
僅かに聞こえてくる息遣いを感じ取り、その方向へと目を向けた。直接目は合っていないが、目が合ったような気がした。
天井裏で誰かがビクッと動くような気がした。
まさか向こうは平民の小娘に見つかるなど思ってもみなかったのだろう。
動揺してるのかも……。
気付かれるなんて陰として失格だ。
「部屋の外に出ていい?」
私がそう問いかけたが、なんの反応もなかった。
見つかっているのだから、いっそのこと返答してくれても良いのに……。
私は「またね」と天井に微笑み、扉を開けた。
きっと、この城では私が監視されていない場所などない。いつでもどこでも、誰かが私を見張っているだろう。
しょうがないことだが、気味が悪い。というより、落ち着かない。
常に気を張っていなければならない。王宮って窮屈な場所だ。今思えば、王子の隣に立つなんてあまりにも自由がなさすぎる。
あの頃の私はどうしてそこまでして、王子の隣に立ちたかったのだろう。
愚かで浅はかな自分の考えに自嘲してしまう。
「あの、ルナ様、勝手にお部屋の外に出られては……」
埃一つ落ちていないピカピカの大きな廊下を歩いていると、後ろから侍女に声をかけられた。
私が振り向いたのと同時に、侍女は目を見開いてじっと私を見つめた。
……ん? 何? 私の顔に何かついてる?
固まった侍女とその様子を不思議に思っている私の間に妙な沈黙が生まれた。
「えっと、どうかした?」
「あ、す、すみません。あまりにも、その、お綺麗で……」
顔を真っ赤にして侍女はたどたどしくそう言った。
あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない。私はゆっくりと彼女に近づく。
私のヒールの音だけが廊下に響いた。
侍女は私から目を離すことなく惚けた表情で見ている。
……人は外見が全てではないけれど、外見が良いに越したことはない。
「部屋に籠っていないとだめ?」
私は侍女の前に立って、口角を上げた。
 




