18
まさか王子に名前を聞かれるとは思わなかった。
「ルナ、俺はエドワード・ジュリー」
知っています。というか、知らない国民いないでしょ。
「このちっさい奴がセス、それからこっちがリックだ」
王子は続けて、隣にいた従者たちの紹介をした。
小柄の従者の方は「ちっさい、は余計です」と不服そうに言った。
名前を教えてもらったということは、少しは信用してくれたという解釈でいい……?
というか、平民の私と王子が会話できていること自体あり得ない。王族一生関わることのない世界の人間だと思っていた。
なんともタイミングというのは不思議なものだ。
王子がここに泊まりに来た日に家族が殺害されて、私は数年間神の元で修行してきた。
世界線のバクが生じているとしか思えない。
「あの、一つ聞いてもいいですか」
私の言葉に王子は「ああ」と頷いた。
「どうして、エドワード様がこんなところに泊まりにきたんです?」
「それは答えられない」
王子の代わりにリックが答えた。
本当は王子が町に出てきていたということを隠しておきたかったのだろう。
…………それなのに、どうして王子は私を助けてくれたのだろう。正直、あのまま見て見ぬふりをすることはできたはず。
「ここにいることバレちゃって大丈夫なんですか?」
私は答えられないということに関して追及するつもりはなかった。
この国王子だ。機密事項はごまんとあるだろう。それに、彼らが口を割ってくれるとは思わない。
「まぁ、なんとかなるだろう」
「こっちの身にもなってくださいよ」
「なんとかしてくれるだろう?」
「……そりゃ、なんとかしますが」
「助かる」
「はぁ〜〜」
王子の言葉にセスは呆れた様子でため息をついた。
そこまで信頼できる部下がいる王子を少し羨ましく思った。私の今までの人間関係は最悪だ。
可愛ければなんとかなると思って生きてきたのだ。薄っぺらい関係しかない。
本当に胸を張って、この子だけは信用できるという人がいない。……家族だけだった。
「素敵ですね」
私は思わずそう呟いていた。
三人とも私の発言に驚いたのか、不思議そうに私を見ている。
「何がだ?」
「エドワード様と彼らの関係です」
「……お前には頼れる存在はいないのか?」
王子のその言葉に私は思わず笑ってしまった。
彼は私の腐った考えを知ってるのに……。
顔さえ良ければ全て良し、と思って私が生きていることを知った上で、そんな質問をされるとは思いもしなかった。
「私にいると思います?」
そう答える私に王子は何も答えない。
できるだけ明るく答えたつもりだったが、その場の空気はどこか暗かった。
「いました、と答える方が正しいですね」
さらに空気を暗くさせた。
「……いつかそんな人が現れることを願ってます。まぁ、私のこの性格じゃ誰も私のことなど好きにならないだろうけど」
「そこまで分かっているのなら、どうして考えを変えなんだ?」
「私は……」
幼き頃の記憶を思い出し、私はそこで話すのをやめた。




