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遺体が……、燃えた?
私は従者から発せられた言葉を脳の中で処理できずにいた。
「は?」
王子の言葉に従者はなんとか落ち着きながら説明し始めた。
「突然、遺体が発火して消えてしまったのです」
「そんなバカな話……」
背の低い従者がまたも信じられないという表情を浮かべた。
確かに今起こっていることは普通では到底ありえないことばかりだ。けど、私は遺体が燃えて消えてしまった話も信じることができた。
そうでないと、この部屋の状況を説明できない。
「ありえるな」
王子は私たちが混乱している中で冷静にそう呟いた。
「この家の者たちが跡形もなく消えてしまったということか」
「ですが、そんなことをできる人間はいません。そんな魔法聞いたことありませんし」
「……できるとしたら神ぐらいか」
「神なんているわけないじゃないですか」
王子に対して小柄な従者はどんどん反発していく。
……私も神界に行くまでは従者側だった。
「俺も信じていない。ただ、今のこの状況を説明するにはそれぐらいしか思いつかないだろう」
私はその王子の言葉に「もしかして」と心の中で呟いた。
……これって本当に神様の仕業だったら?
本当の母を殺した最高神が私の存在を知って、私の大切なものを全て奪おうとしたのかもしれない。
…………だから、私だけ残した?
かつて愛した女が残した最後の形見が私とか?
私は自分でそんなことを考えながら自嘲した。そんなことあるわけない。
神様がわざわざ人間に手を下すようなことはしないだろう。
「どうした? 何か分かったのか?」
王子が突然私の顔を覗き込む。
思わず心臓が飛び跳ねるかと思った。超美形にこんなふうに顔を近づけられることなんてない。
神様たちの眩しいぐらいに美しい顔立ちに目はだいぶ慣れたが、王子はそれと並ぶぐらいの顔だ。
誰も敵わんだろう、この人間に……。
私は王子を見つめながらそんなことを思った。
「おい、大丈夫か?」
「あ、はい。えっと、何もわからないです」
神様の存在は伏せておこう。
何か問い詰められると面倒だし……。それに、犯人が神だった場合、人間が敵う相手ではない。
けど、実の父親は最高神に殺されたのだ。
もし、本当に最高神がルイや両親を殺したのなら神が相手だろうと戦ってやる。全力で争ってやるわよ。
「お前、犯人を殺すつもりだろう」
王子の言葉に私はハッと我に返った。
「どうしてです?」
私は急いで顔を作って、王子の方を見る。
王子は何も答えない。きっと、私が誤魔化していることも見抜いているのだろう。
「……復讐なんてやめておいた方がいい」
背の高い方の従者がボソッと声を発した。
「なぜ? こんな家族がこんな無惨な殺され方しているのよ? 犯人に理屈なんて通じないでしょ?」
私はにこやかに従者の方へと近づいた。
顔が可愛いからという理由で全てのことを終わらせられてきた。別に悪いことだと思わない。
それも一つの要因だろう。周りにどんな風に思われてもいい。
けど、今回ばかりは自分の中でそんな処理の仕方はできない。
「殺される覚悟のある者だけが殺せ」
私はじっと従者の薄いグレー色の瞳を見据えながら口を開いた。




