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私は顔が良いだけ  作者: 大木戸 いずみ


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 私は宿に入った瞬間、思わず顔を顰めてしまった。

 その場にいた全員が顔を歪めた。それぐらいこの宿は異臭を放っていた。

 あの日の朝は衝撃で匂いを感じていなかったけれど、改めてはいると鼻がもげるぐらい異臭を放っている。

 この血の匂い……。当たり前だけど、あの日のままなのね。

 自分の時間感覚がおかしくなりそうだった。

 神界ってすごいのね。


「ここのお嬢さん、初めて会った時と別人みたいですね」

「……ああ」


 従者が王子にコソッと話しかける声が聞こえた。

 別人だけど、別人ではない。

 あれから私の中では五年経っている。その五年を無味に過ごしていたわけではない。

 毎日死に物狂いで何かを得ようと学んでいた。

 その五年間が彼らの中ではたったの数時間ってことよね……。それは別人だと思われてもしょうがない。


「弟の部屋はどこだ?」

「その手前の部屋です」


 王子は弟の部屋の前で立ち止まった。

 客室には鍵があるが、私たち家族の部屋には鍵がない。

 もし鍵をつけていれば、家族は殺されなかったのかもしれない。……今更「たられば」の話をしたところでしょうがないのだけど。


「開けるぞ」

「はい」


 空気がピンと張り詰めたような緊張感に包まれながら、王子はゆっくりと扉を開けた。

 

「嘘でしょ……」

 

 私は扉の奥の光景に思わず目を疑った。

 荒れた様子はそのままだったが、あの血の海の様子が微塵も残っていなかった。

 血など最初からなかったかのように綺麗なままだ。ただ、部屋の中が散乱している状態。


「どうして……。こんなんじゃなかった」

「どういうことだ?」

 

 困惑する私に王子は怪訝そうに私を見る。


「こんな部屋じゃなかった。ルイの部屋はもっと血だらけだったんです」

「見間違いじゃ……」


 王子の従者が疑うように私の方へと視線を向ける。

 この状況なら信じてもらえなくても仕方がない。けど、確かにあの日の朝、私は血で覆われたこの部屋を目にした。

 忘れるわけない。


「見間違いなんかじゃないです。この部屋は真っ赤に染まってました。血の匂いがまだ残っているでしょ?」

「……嘘を言っているとは思えない。だが、その血はどこに行ったんだ?」

「それが謎なんです。この中で一番驚いているのは私です」

「じゃあ、やっぱり記憶違いなのかもしれない。ショックで勝手にそう思い込んでいただけとか」

 

 いきなり血が消えることなんてありえない。

 従者が私の話を信じられないのは理解できる。逆の立場だったら私も同じことを言っているだろう。

 真実なのに、真実だと証明できるものが何もない。

 

「殿下、あの時の私の無礼をお許しください。……最初の印象が全て。私に対しての不信感はあると思います。ですが、この状況で嘘をつけるほど私は道を外しておりません。確かにこの部屋は血の海になっていたのです」


 私は確かな声で王子にそう伝えた。

 その瞬間だった。バタンっと家の扉が大きな音を立てて開いた。

 駆け足でもう一人の従者が入ってきた。


「殿下!! 大変です!! 遺体が燃えました!!」

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