14
私はゆっくりと王子たちの元へと足を進めた。
「おい……」
「お嬢さんが戻ってきたぞ」
「さっき、何か王子と言い合いしていたわよね、知り合いだったのかしら?」
「ルナと王子が? まさか……、ありえないだろ」
「だって、あの容姿よ。王子も惚れちゃったのかもしれないわ」
「そうよ。だから、ルナの家族のそばにいるんじゃないの」
「やっぱり可愛いと得ね」
周りの声が嫌というほど耳に入ってくる。
それでも構わない。「顔が良いから」と全ての原因をそれにしてもらえる方が楽だ。
戦う相手の価値のないものに割く気力はない。戦う相手は自分で定める。
モブはさようなら。
多くの視線を感じながら、私は王子の前で立ち止まり、彼と目を合わせる。
驚いた真っ赤な瞳に凛とした私が映っていた。
……私ってば顔つき随分と変わったわね。
我ながらにそう思う。我ながらにそう思うのであれば、側から見ればもっと変わっているだろう。
「戻ってきたのか」
「はい。私はまだここでやるべきことがあるので」
「遺体の……、君の家族はちゃんと運んでもらう」
「ありがとうございます」
王子がそこまでしてくれるとは思わなかった。
私は内心驚きつつも、それを見せずに丁寧にお辞儀をした。
こんな凄惨な事件を二度と繰り返すわけにはいかない。なんとしても犯人を見つけ出さないと……。
街の人たちも怯えているもの。
私は改めてここに帰ってきてからそう思っていた。
「中の様子を見てもいいか?」
王子の言葉に私は頭を上げて、「はい。もちろんです」と答えた。
「お前たちどちらかはここに残っていろ」
王子は従者に向けてそう言った。
もしかして、王子もこの事件を解決するのを手伝ってくれるの?
いや、それもそうか。この状況を国の一王子として無視できるわけがない。
「では、私が残ります」
茶髪の背の高い従者の方がそう言った。
私はもう一人の従者の方へと視線を向けた。
こうやって見てみると王子の従者にしては小柄だ。それに、目が開いているか開いていないかわからない目の細さをしている。
……けど、綺麗な顔立ち。
「君はもう一度家に入っても平気か?」
「それは……私のことを心配してくださっているのですか?」
「ああ。トラウマと向き合うのは楽なことではない」
王子のその言葉に、彼もまたトラウマがあるのだな、と思った。
だからこそ、平民の私に配慮してくれている。
確かにこの事件は相当なトラウマだけど、私はこの五年で随分と成長した。
家族を殺した犯人に対しての怒りは決して消えたわけではないけれど、この事件のことを自分なりに消化できるようにはなった。
「楽なことではないけれど、向き合わないと前に進めないです」
私は確かな声で王子にそう言った。




