13
目が覚めると、私は泉の横で横たわっていた。
ついに戻ってきたんだ。
私は久しぶりの人間界に懐かしい感覚を覚えていた。
やっぱり神界とは空気感が違う。神界の方が空気が澄んでいた。
私は自分の服へと視線を向ける。パジャマだし、それに、……血。
ルイの血がまだついている。
あの日のままなんだ。
「戻らないと」
私は慌てて立ち上がり、街の方へと駆け出した。
この泉を訪れた時よりも随分と足が軽い。私にかかっていた重圧がなくなったのかもしれない。
未だにあの事件で私だけが生き残った謎は残っている。
本当に「顔が良い」という理由で生き残ったのなら……、今となればそれでいい。
理由は何であれ、私はまだ生きているのだ。犯人に復讐するために生きていると言っても過言ではない。
私は駆け足で森を出た。街へと急ぐ。
……見慣れた景色のはずなのに、どこか新鮮さを感じていた。
私の見た目は変わらずとも、精神的には五年の年月が経っている。変な感じ……。
足を進めるにつれて、また街の人たちの視線が 私へと注がれる。
さっき、街を出て行ったばっかりなのに、もう帰ってきたと思われているのかもしれない。それとも、ただただ私に対して哀れみの情を向けているのかもしれない。
どっちにしても、周りの目など関係ない。
「ただいま」
私はそう言って、自分の家から少し離れたところでそう呟いた。
宿の前にはまだ多くの人が集まっている。この人だかりの中戻りたくないっていうのが本音だが、自分の家族を守らなけれありならない。
私は家の方へと足を進めた。
宿の前で三人の遺体は綺麗に並べられていた。王子と従者たちもまだそこにいた。
……なんだか、久しぶりに旧友に会ったような感覚ね。
私は視線をルイや両親の方へと移す。
前よりかはちゃんと見ることができる。原型をとどめていない遺体。もしこれが「ルイでなく違う人間だ」と言われても信じてしまう。
こんな酷いことを同じ人間がやったとは到底思えない。
王子と従者たち三人が私の家族を守るように囲んで立っていた。
遺体を回収されるまで、ずっと私の家族を見ていてくれるの……?
王子や従者はいい人たちだ。あの頃の私が最低だったのだ。彼らの立場も考えずにただ助けを乞うた。
間違いではないけれど、助けてくれなかったからと言って彼らを揶揄する権利は私にはない。
人は立場によって態度や行動が変わるものだ。
だから、あの時、正体をバレてでもいいからと王子が私の家族を磔から解放くれたのは奇跡だった。
「馬鹿で無知だった……」
これまでの自分の言動を人間界の戻ってきて更に恥じる。
なんて高慢な女だったのだろう。
大切なのは外見ではない。
真の美しさは内面から出てくるものだとイザベラが言っていた。
もう前までの私ではない。これから自分がどうしていくべきか分かっている。
……それでも、私は顔が武器だ。この良い顔をこれから利用する。




