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ちがう。私が想像していたのと違う。
私は今置かれているこの状況に唖然としていた。
神様に頼めば絶大なパワーを手に入れれると思っていた。超能力みたいな……。
それが今、私はこうして椅子に座り、キュディスの監視下の元、机にある書物をひたすら読んでいる。
能力とか与えられるんじゃないんだ……。
『力というものは地道に培ってくのだ。簡単に入る力ほど脆弱なのだ』
キュディスは私の心の中を読み取り、そう言った。
楽して賢くなる方法などないのだ。新しく身につけた知識を無理に出すと己の浅はかさが露呈してしまう。
……ゆっくりこつこつと自分を磨いていくしかない。
私はもう一度集中して、本を読み始めた。
『ルナの調子はどう?』
シャーロットがキュディスの元に現れ、ルナの邪魔にならないようにこっそりと尋ねた。
ルナはシャーロットが来たことに気付かず、ただひたすら膨大な書物に目を通し続けている。
『正直な話、驚いているよ。凄まじい集中力だ。やはり、半分神の血が流れているだけのことはある』
『復讐に燃えているだけかもしれないわよ』
シャーロットの言葉に『成長する動機など不純で良いのだ』とキュディスは返す。
ご飯も食べず、時間も忘れ、学問に没頭するルナを見守る。
『ラディと似ているわね。彼女は本当の美は内側にあると分かっていたもの』
『もう一度ラディに会いたいものだ』
『本当に……。ルナを見ていると懐かしい気持ちになる』
『ああ。ラディと久しぶりの再会を果たしたような気持ちになる』
ルナがぶつぶつと呟いている声がシャーロットとキュディスの耳に入って来る。
「こっちのウイルスが血液感染で、こっちのウイルスが空気感染? ……ほとんど同じ形のウイルスじゃない」
キュディスは『私の出番だな』と言って、ルナの元へと向かった。
シャーロットはキュディスがルナに丁寧に教えている様子を見つめながら昔を思い出していた。
ラディがまだ神界にいた頃、好奇心旺盛でなにごとも素直に学んでいた彼女はよくキュディスに質問をしていた。
キュディスはラディから来る質問をとても嬉しそうに答えていた。
そんな様子をもう一度見ることができることにシャーロットは感動していた。
『幸多からんことを』
それだけ言い残すとシャーロットはその場を静かに去った。




