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第6話 モン・シッター

「モンスターたちのこと、詳しいんですね。『モン・シッター』のことはよくわからないけど、シュシュさんだからできるお仕事なんだなって思います」


 ラブリィちゃんにも、トッティにも、シュシュさんがめいっぱいの愛情をもって接していたところを見てきた。

 だからほほ笑ましい反面、いいなぁ……ってうらやんだりもする。


「キミはやっぱり、変なヒトですね」


「えっ、そうですか? ふつうにしてるつもりだけどな」


「変人あつかいされてるシュシュに、変なヒトって言われてるんですから、相当です。……シュシュはともかく、トッティを気にかけてくれるヒトなんて、はじめてです」


 サク、サク、サクリ。

 しばらく芝生をふむ音だけがひびく。

 僕が黙って話の続きを待っていると、すこしして、シュシュさんが口をひらいた。


「……『ポット・トレント』や『ポット・マンドラ』は初心者向けのペット・モンスターですけど、見た目が怖かったり、彼ら自身は立って歩くことができなかったりで、実際はほとんど見向きもされていません」


「そんな……」


「愛くるしい見た目で、甘えてくる。ペットを飼うヒトの大半が求めているのは、そういうものです。……このマムベル共和国も、ほんの7年前までは隣国と戦争をしていて、自由に出歩くこともままなりませんでした。だから、長いことストレス環境下にあった反動で、みんなが癒やしを求める気持ちは理解できます」


 シュシュさんの言葉は、「でも」と続ける言い方だ。


「見た目が怖いから、遠ざけてしまう。すり寄ってきてくれないから、なつかれていないと思ってしまう……そうやって見向きもされないモンスターたちがいることが、シュシュは悔しいです。だって、トッティはこんなにやさしいのに」


「シュシュさん……」


「見た目だけじゃなくて、中身も見てほしいと思います。そうしたら、捨てるとか、簡単に思いつかないし、できるはずがないですから」


 めったなことは言えないけど……もしかしたら、トッティはむかし、捨てられていたのかもしれない。

 だからこそ、シュシュさんがこうやって胸の内を明かしてくれたんだとすれば、納得もいく。


「そうですね……捨てられるのは、寂しいし、つらいです。よく……わかります」


 だって、一度むかえられた側からすれば、そこにいるヒトたちはもう、『家族』なんだから。

 いけないな。なんだか感傷的になっちゃう。こういうの、柄じゃないんだけどな。


「……キミは?」


「んっ? 僕?」


「シュシュにばっかしゃべらせるのは、フェアじゃないです。ただでさえ怪しいんだから、情報開示をもとめます」


「あははっ、たしかに!」


 シュシュさんがちょっとでも僕に興味をもってくれたってことが、くすぐったくて、笑ってしまった。

 うーん、でも、なにから話そうか? なんて考えている間に、うしろから語りかけられる。


「めずらしいですよね、黒髪って。シュシュが知る限り、極東の島国に住んでいたヒトたちが、こんな髪色だったらしいですけど、その国は……」


「さすが、物知りですね。そうです、僕には、いまは亡き極東の島国、ジャポニの血がながれています。母さんの家系ですね。父さんは……こっちの国の出身で」


「なるほど。ジャポニ人は黒髪に黒い瞳とききますが、キミが青い瞳をしているのは、そういうことでしたか」


「変……じゃないですかね」


「べつに。ラピスラズリみたいだなぁとは思いましたけど。星が輝く夜空みたいな……そうか、だから『ソラ』って名前が、思い浮かんだのかもしれないですね」


 こんどは、僕が沈黙する番だった。

 サク、サク、と音を立てる芝生を見つめながら、熱くなる目頭をどうしようか、必死に考える。

 困ったな。シュシュさんをおぶってるから、両手が使えないんだけど。

 あ、でも、背中を向けてるんだっけ。だったらいまだけだ。テントにつくまで、それまでに、どうにかして……


「むっ、なんだかスピードが遅くなりましたよ」


 ……なぁんて、甘くはないよね。


「だれかさんに追っかけまわされて、シュシュはおなかペコペコさんなんです、はやくランチにしたいです。さっさと歩くっ!」


「はいっ、ごめんなさぁいっ!」


 シュシュさんにせかされるがまま、猛ダッシュで丘を駆け上がる。

 鞭を打たれた馬の気分って、こんな感じなんだろうな。

 ちょっと楽しかったって言ったら、また「変なヒトですね」って返されるんだろうな、きっと。

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